中学校での戦型の決定 Part2 ~前陣異質型~

Part1では、部活顧問から戦型の押し付けが行われる非常事態と、裏ソフトが総合的には最も優れているという私の考えについて述べました。

 

今回は、特に押し付けられがちで問題だと思っている、前陣異質型について考えます。

 

                      

前陣異質型から見ても、ドライブ型は魅力的

                      

これは私が前陣異質型の子とやり取りする中でハッとさせられた話です。

 

彼らの試合を観ていると、フォアに少し浮いてきた球に対して大きく振ってミスしていることに気付きました。

粒高ではバックプッシュは比較的簡単ですが、フォアに来た下回転を強打するのはかなり難しいです。

 

フォアハンドの練習をすることにしたとき、最初は粒高でコンパクトに振って、面でネットの上まで連れていくよう伝えました。生徒たちはすぐに感覚の大枠を掴んだようでボールが入りだしましたが、なんだか煮え切らないような表情です。

尋ねてみると、もっと強く打ちたいとのこと。加えて一人が「ドライブ型みたいにドライブしたいです」と言ってきました。

 

これには唸りました。やっぱりそうなのかぁ…と。

小気味よく三球目攻撃をするチームメイトを見て、普段あまり口には出さないけれど、本当はドライブをしてみたいと思っていたわけです。

守備的になりがちな前陣異質と違い、ドライブ型であれば自分から積極的に攻めていき打ちぬくということができますから、爽快感が段違いです。

それを見ていればフォアを振りたくもなるよなぁと思いました。

 

こういった経緯があり最近、反転してフォア裏ソフトでドライブする練習に踏み切りました。

今の彼女たちには粒高の技術を伸ばして少しの勝ちを増やすことよりも、フォアドライブの練習をして満足感を得ることの方が大切だと判断したからです。

もちろん粒高の練習もしますし、試合で無理に反転してドライブする必要もないと考えていますしかしながら、たとえ試合で使えるようにならなくても、「私はドライブが出来るんだ」という自信が卓球を楽しむことへと繋がると思ったのです。

 

前陣異質型の子たちがこの先の人生で卓球を続けるかは分かりません。けれどドライブの練習をすると、とても楽しそうな、満ち足りた表情を浮かべます。(しかも良質なドライブが結構な確率で入ってきます。卓球を初めて一年半、フォアドライブの練習などほとんどさせてもらえなかったのにです。)

これをきっかけに高校でもやってみようかなと思ったり、あるいは将来卓球を再開することに繋がればいいなと思っています。

将来再開するとなった時に、フォア裏ソフトが選択肢になり得るくらいには裏ソフトに慣れてもらいたいです。

 

                      

前陣異質型のメリットとは

                      

今までに前陣異質型のメリットを語る方にもお会いしましたが、そういう人たちに共通しているのは卓球をあまり経験されていないということです。

聞いていて確かに一理あるとも思うのですが、全面的に賛成することはできません。

それらについて1つずつ考えてみます。

 

1. 運動が苦手な子でも挑戦しやすい

本当にそうでしょうか。私はそうは思いません。

確かに回り込んでのドライブが選択肢から消えますし、(優しく当てる感覚があれば)ラリーをゆっくりにしやすいという点は認められます。

 

しかしながら、大きく動くことが少ないとは言っても足の位置を細かく調整しなければなりません。

さらには粒高の特性により、自分のボールは相手のボールの質に大きく依存し、なおかつ軌道は不規則になります。ゆえにラケット角度や力加減の調整は裏ソフトのそれよりもシビアです。

 

これらの点から、そもそも粒高自体が初心者向けではありません

一方で裏ソフトのボールの飛び方は、自分の動きに依存する割合が高いです。そのため、正しい軌道や身体の動かし方を短い期間でインプットできます。

運動が苦手な子にとっては、習得に必要な情報量が少ない裏ソフトの方が向いているとさえ言えます。

 

卓球をあまり理解していない人が一見すると、大して動かずとも出来るように思うのでしょうが、実際にはそんな簡単なものではありません。それに、「前陣異質は運動が苦手な子に向く」と思っている人たちは、動き方をきちんと教わった前陣異質型をそもそも見たことが無いのだと思います。

 

教育的な観点から見ても、運動が苦手な子こそドライブ主戦型にすべきです。

身体をゆっくり動かしていてはドライブは上手くいきませんから、自ずと素早く動くことになり、それまで運動に親しんでこなかった子どもの身体機能が目覚めていきます。

また肩や肘、膝といった関節を意識させる中で、「自分の身体の動きを認識する」ことを経験します。

運動が得意な子どもは無意識に思考と身体運動がリンクしますが、苦手な子どもはそこが上手くいっていません。卓球は用具が軽くラリーにかかる時間が短いため、中学生であっても短い時間で大量に打球することが可能です。素早く動くことを繰り返し、思考と運動のリンクを確認する中で、総合的な運動能力が高まっていきます。

中学校の卓球に関しては、こういう所にも大きな価値があると思うのです。

 


2. 初心者でも勝ちやすい

卓球歴の長い選手に短期間で抵抗するために粒高を使おうという考え方です。もし前陣異質を育てられる人がいて、プレーする本人も納得してを選んだなら良いと思います。

しかしながら、粒高を使ったところで卓球歴の長いドライブ型には適いません。初心者が初心者に勝ちやすいだけの話なのです。

それだけでなく、中学三年の最後の大会となれば中学始めのドライブ型もかなり力を付けてきます。そうなると力の逆転が起こり、勝てなくなってしまいます。

短期的に一瞬でも勝てればいい、というのなら前陣異質を選択するのもありと思います。しかし長期的に見て上手になりたいと思うのならドライブ型を選択すべきです。

前陣異質を選ぶにしても、攻撃技術ありきの前陣異質を目指すべきです。

 


3. 地区大会で当たるから部内に用意したい

 これも顧問の先生の都合が優先されていないでしょうか。

確かに中学校では県大会でも一定数存在しますし、市や地区大会となればかなりの数を見ます。前陣異質のボールに慣れておくことは必要でしょう。

しかし子供の希望を無視して前陣異質を押し付けるのはおかしな話です。

本当に対策が必要なら、先生自身が前陣異質用の用具を用意して練習相手になるなり、他校との合同練習を行って前陣異質型と練習させてもらう機会を設ければいいのです。

 

 

自身で選択した上で「これらがメリットだ!」と言い切るならそれは素晴らしいことですが、戦型として一方的に押し付けた時にはデメリットが大きすぎます。

中学校において卓球を始める子供についてどのように戦型決定をすべきか、次のパートで具体的に考えていきます。

 

 


(最終修正日 ’17/2/10)