声を出すということ ~指導する側から見る~

中学校においては、練習や試合でとにかく声を出せという指導がなされることが往々にしてあると思います。少し考えれば分かることですが、声を出すことは目的ではなく単なる手段です。しかも、ただ声を出すだけで何かがうまく行くというのは稀です。

どういう目的を持ち、「声を出すこと」をどう利用するのか。また、中学校の卓球部における応援はどのようにすべきか。今回はこれらについて考えます。

 

考えるきっかけ

 先日の中学校の練習で、先生が生徒に「声が出てないぞ」という言葉をかけました。彼女は私とゲーム練習中で、私が見るに大変集中した状態でやれていました。振り返ってみると、確かに中学生との試合よりは声が出る場面が少ないようには思います。この理由をいくつか考えてみました。

  • 実力差が普段よりあるため、より集中しなければならない。結果、声を出すことが意識の外に出る。
  • 私を打ち抜いての得点が少ない、また思ったような展開で中々得点できない。
  • 格上で年上でもある人間とのゲーム練習であり、心理的な遠慮がある。

どれが正しいかは本人に確認していないので分かりませんが、こうしろああしろと言う前に、「そうなってしまう理由」を考える必要があります。その上で、指示とその狙いをセットで伝えるべきです。

先生の言い方にも違和感がありました。励ますような感じではなく、「上からの指示」のように感じました。同じ言葉でも誰にどんな風に言われるかによって、受け入れやすさは全く違います。

 

こんなことがあり、このような状況で無理に声を出させるべきか疑問が残りました。

私は外的圧力によって声を出させることが良いとは思いません。もしそういう指示を出すとしても一方的な押し付けは避け、セット間あるいは練習後に対話をした上で行うべきです。例えば、「ポイントを取ったら自分を励ます意味も込めて『よし!』と言ってみよう」とか、「ポイントを取れなくても、そこまでにいいプレーがあったら声に出して自分を褒めよう」など。

これらの指示の核は「声を出しなさい」ですが、声を出す目的や出し方に関して具体性を持たせることで、生徒自身にとって声を出すことが明確な価値を持ちます。

 

 

声を出すことの価値

興味深い記事をご紹介します。



声を出すことの効果を引用します。↓

『科学的効果』・・・①

・大きな声(特にシャウト)を出すことで、神経系における運動制御の抑制レベルをはずし、筋肉の限界値まで力を発揮させる効果、つまり声を出すことによって自分のパフォーマンスを最大限に近づける効果が期待できる(声はもう1つの筋肉、と言われています)

・声を出すことによって、一時的に呼吸が深くなり断続的な深呼吸をしているのと同じ状態になる、つまり心肺機能を高め、集中力、ネバリ、持続力が向上する

 

『精神的効果』・・・②

・やる気、気合い、意気込みを高める

・励まし効果(自分、仲間)

・セルフトークによる自己暗示効果

→自分自身に声をかけることで、”勇気づける”、”精神的なゆとりを与える”、”理想的なパフォーマンスを実現させる”などプラスの効果が期待できる

 

『実質的効果』・・・③

・チームプレーにおける意思疎通(リズム・タイミング)

・危険防止(存在認知、接触の回避)

・声を出すことによって、自分たち独自の空間(空気)を創り上げる(一体感)

 

中学生に声を出すよう指示するのであれば、少なくとも指導者側は声を出すことの効果をざっくりとでも理解しておくべきです。その上で、卓球においてそれらをどう活用できるかを考えて指示を出さなければ声出し部になってしまいます。

とにかく大きな声を出させる指導者というのは一定数存在すると思いますが、卓球においてはその程度が問題になります。緊張緩和が目的であれば、大きな声を出して自分を鼓舞するのも良いでしょう。しかしそれが過剰になると、何も考えずプレーする状態を作り出してしまいます。

 

ここからは、引用した記述の①~③について考えていきます。

 

①科学的効果

これはテニスや砲丸投げなど、一瞬に大きな力を出す必要がある競技で有効でしょう。

卓球ではプレー中に叫ぶことはコントロールの喪失に繋がりますので、これの利用は適していません。叫べるとしたら、後陣に下げられて無理やり反撃していく時くらいでしょうか。

 

②精神的効果

これはほぼそのまま卓球に通ずると思われます。 福原愛選手がセルフトークを多くすることは有名ですが、試合において精神状態をコントロールする助けとして利用できます。

集中できる空間を作るという意味で、サーブやレシーブの構えに入る前にサッとかハッと声を出すのも有効です。疲れなどで集中力が散漫になっている時、こういう知識があれば集中力を無理やり引き上げることができます。

このことは中学生だけでなく、高校生以上や大人であっても有効です。自分だけでなく、相手の集中力も引き上げる効果が期待できます。

 

③実質的効果

卓球は個人競技ですので、チーム間の意思疎通としての声の役割はありません。身体的接触もないため、危険防止としての役割もありません。

卓球においては例えば、練習においてミスした際に正しいイメージをインプットすることに使えます。また、トップ選手でも声でリズムをとったりタイミングを合わせたりしているのを見かけます。テンポやタイミングが重要な卓球においては、試合でも練習でも利用価値が高いでしょう。

 

 

部活動における応援

試合における応援も声を出すことに該当しますが、応援については中学校でいびつな指導がされがちです。大きな声を出して応援する学校は多く見られますが、子供たちが「ただ声を出しているだけ」になってはいないでしょうか。確かに人との協調やチームでの結束に繋がるという考え方もありますが、それだけであれば卓球である必要がありません。

せっかく卓球をしているのですから、卓球の特性を利用すべきです。卓球で特徴的なのは、目の前で全てのプレーが行われ相手の表情まで見えるという点です。相手の弱点は何か、何が相手に効いているか、戦っているチームメイトの心理状態はどうか、相手が得点したとき/ミスしたときどんな表情をするか、など観察できることはたくさんあります。中学生には難しいと思われるかもしれませんが、卓球を初めて1年も経てばかなり見えるようになってきます。ただし、たくさんのことを同時に考えさせるのは難しいので、「Aさんは今回~~を、Bさんは○○を観察してみなさい」などとポイントを絞れば、子供たちは集中できます。

 

「声を出して応援しなさい」では声を出す機械になるだけです。それでいて「考えて練習しなさい」などと指導するのは矛盾します。それに、応援するだけだったら誰でもできます。赤の他人でも、卓球をやったことが無い人でも、応援だけだったら同等にできます。観察・分析など、チームメイトでなければ出来ないことをするのが本当の応援だと私は考えています。

 

 

(おわり/最終更新:2017/5/2)