大型連休2017① ~ベンチワーク編 その1~

5月の大型連休、全国各地で卓球の試合が行われたことと思います。

御多分に漏れず私の協力先?の中学校も、大会と練習試合を消化しました。一つの大会と練習試合では、私もベンチに入ることが出来ました。

今回はベンチワークに焦点を絞り、大型連休を通じての見聞編と経験編に分けて書きます。

 

 

 見聞編

人様のベンチワークを観察して考えたことをまとめます。

 

叫ぶ時間を観察・分析へ回すべき

選手が得点すると、選手本人を上回る勢いで叫ぶベンチワークがしばしば見られました。これに対してまず思うことは、「叫ぶ時間とエネルギーを、観察や分析に回すべき」ということです。具体的には、何が相手に効いているか、何が上手くいっているか、選手を助けてくれている技術はどれか、といった情報を拾い集めて、選手に伝えられるよう準備します。

ミスが重なるものがある場合には、選手の心理状態を加味して分析する必要があります。ミスするまでの展開・狙い・方針は良いか、身体の動きは普段の試合や練習の様子とどう違うか、ミスが重なって塞ぎ込み始めてはいないかを観察・分析します。その上でミスに直接言及することは極力避け、「狙いはいいから打つと決めたら思い切って行こう」とか「君のこのボールでチャンスを作ってから次でドーンと仕掛けよう」といったように、前向きな伝え方をします。発言の中で否定形を使わないよう注意します。

試合をしているのは選手であり、自分がコントローラーを握ったテレビゲームではないのだということを忘れてはいけません。ベンチがただアドバイスをしただけでその通りに事が運ぶなどということはないのです。選手の心理状態を把握した上で伝える情報や次の戦術を選択して初めて、アドバイスはプラスに働きます。

(ただし、セット中に状況は変化しますから、選手の自主的な戦術変更が行われるように普段から指導しておかなければいけません。そうでなければセット終盤に効かなくなった戦術を使い続けてセットを失う可能性があります。)

 

叫ぶ先生たちにはきっと、選手を応援しようという気持ちがあるのだと思います。しかしそれは、ベンチの役割ではありません。ベンチの最大の役割は、プレーで手一杯な選手に代わって思考を担うことであり、ベンチは選手と一緒になって戦う存在でなければなりません。選手にとって本当に叫ぶ応援が必要なら、観客席にいる部員にお願いすれば良いのです。

ベンチの特長は、すぐそばにいながら選手より一歩引いた目線で試合を見られることと、選手の表情を観察し心理状況を分析することができる点にあります。これらを活かすよう意識すれば、卓球にそれほど明るくなくとも優れたベンチワークは行えます。

 

足を組むのはいかがなものか

選手との信頼関係が築かれており、かつ戦術的な狙いを持って足を組むならアリと思います。残念ながら、私が会場で見た足組みはそういうものではありませんでした。「先生は生徒より”偉い”んですか?」と尋ねたくなるような座り方がそこここで見られます。

中学生の彼らがにとって、中学校で体験するベンチワークが人生における最初で最後のベンチワークかもしれません。卓球に関する知識や経験がどうとは関係なく、ベンチに入るなら選手に失礼のない態度で終始臨んでいただきたいものです。

 

 

経験編

ベンチに入る中で得た経験を中心に書きます。

 

反省を活かしたベンチワーク

前回までのベンチワークに関する反省を踏まえ、大会でのベンチ入りで今回意識したことは以下の4点です。

  • ベンチは一台に集中する
  • ベンチに入れない台は別の生徒に任せる
  • 他の台を見ない
  • 試合途中からベンチに入ることはしない

今までのベンチの経験から、「二台を観るもの一台も観られず」と認識していました。きちんとベンチの役割を果たそうと思ったら、一台だけを見て試合一連の展開を把握していなければいけません。また、別の台にチラッと視線を移した瞬間選手の視線がこちらを向いてしまったことが以前ありました。それより前から気を付けていたのですけれど、やはり不十分だったと反省し今回は徹底しました。ボールが飛んでこようが他の生徒が寄ってこようができるだけ目線は外しません。(もちろん生徒を拒絶するような印象を与えないよう、柔軟に対応したつもりですが…)

また、ベンチに入った試合が終わり、隣の台で試合をしていてもそこには入らず新たに始まる試合のベンチに入るようにしました。やはり1セット目から流れを見ていないと、漠然としたアドバイスになりがちだからです。

今回は大会序盤は二台進行、決勝に近付き台が空くに連れて三台進行が増える形式でした。二台進行の時点ではカット型の試合に優先的にベンチ入りし、もう一台は近い戦型の生徒に「こっちの台は、よろしく頼むよ」と伝えてアドバイザーの役割を任せました。生徒たちは一瞬「えぇっ」と戸惑いますが、以前の大会でも同様にやったことがありましたのでなんだかんだアドバイスをする態勢になっていったようです。

 

 

ナイスチャレンジ

カット型のベンチに入ることが多く、何度かセット間で戦術変更を提案しました。具体的には、ツッツキだけでどんどんリードできてしまう試合で攻撃にチャレンジしてもらいました。

粒高のナックルボールとフォアの切れたツッツキが混ざるため、思い切れば打って行ける球は飛んできます。1セットが終わった時点で後述のような説明をし、第2,3セットでは数本フォアハンドでの攻撃が出来ました。技術的には球を選んで打てば入っていきますが、試合で打っていくのがまだ怖い段階にいます。攻撃するというのは彼女たちにとってイベントで、どうしても力みが出たりミスへの不安が脳裏をよぎったりして、打ちに行けないのです。カット型としては気持ちはよく分かります。

私が毎回の試合でベンチには入れていたなら、リスクの低い試合で攻撃チャレンジをさせ、今頃には精神的に慣れていたはずと思います。しかしながら時間は巻き戻りませんので、今からでも出来るだけ挑戦してもらいます。今から技術的に伸ばすのは難しいですが、今ある技術の使い方や気持ちの持ち様は向上させることができると考えています。勝ち進んで格上と当たった時、ツッツキとカットだけでは太刀打ちできない場合があるのを彼らは体験してきました。いざとなったら攻撃する選択ができるまでには、気持ちを慣らしてもらいたいと思うのです。

 

このままツッツキだけしていても、ただの作業になってしまう。相手には悪いけれども、ここは攻撃を試合で使うチャンスと思って次のセットに臨もう。

1セット目の中で浮いてくる場面があるのは分かったと思う。2セット目はどういうボールに対して相手が浮かせるか確認しながら進めて、2点以上差が付いたら積極的に打っていこう。全て打っていく必要はないし、ものすごいボールを打つ必要もない。でも、打つと決めたら思い切って行こう。

※実際にはもう少し、硬さの無い言い方をしております。

大会の後日行われた練習試合でも、同様のチャレンジをしてもらいました。

 

リカバリー/大型連休中で最大の成功

今回一番手ごたえと言いましょうか、私が役に立ったなと感じられたのはあるダブルスの一戦でした。シェイク裏裏のAさんと前陣異質のBさんペアです。

その試合までは相手との実力差が大きく、精神的に余裕をもってプレーできました。しかしその試合はグッと相手の実力が上がり、同格以上の選手ばかりの学校です。団体戦で何度か対戦し相手が強いことを生徒も知っているため、1セット目のプレーが明らかに硬くなっています。Aさんの表情がみるみるうちに曇り、仏頂面になったまま動かなくなりました。BさんもそんなAさんを苦笑いしながら励ましていますがプッシュのミスが重なり、1セット目を落としました。ベンチに戻ってきた時には片やムッスリ、片や目が潤んでいます。

ここで私がAさんに伝えたアドバイスは以下の通りです。

球を選んで打ちに行けているのはとても良い。ミスがあるからと言って打つのをやめてはいけない。今よりも少しだけボールを待って、足でグッと踏ん張って打つことを意識しよう。気持ちが乗らなくても身体が覚えているから、打つと決めて思い切って打てば必ず入るようになってくる。

 2セット目、Aさんの表情は冴えないままですが足の踏ん張りが効き、球を迎え入れて打てるようになりました。打球音や軌道が普段のものに近付いていき、攻撃による得点が増えだします。ここが得点源となるとBさんがプッシュで決めねばならない状況から脱することができ、安定を取ったプッシュを放つことができます。Aさんの攻撃とBさんのプッシュが少しずつ戻ってきました。

3セット目にはAさんの笑顔がチラチラと見え始め、普段のダブルスの感じになってきました。2,3セットを取り、4セット目は相手の展開にさせず一方的に自分たちの持ち味を活かした得点パターンが続きます。結果3-1で勝利することができました。

 

試合が終わり、2人と少しお話しました。

2人とも2,3セット目でよく踏ん張ったこと、やはり身体が覚えているから打ち続ければ戻ってくること、そうなると相方にも余裕ができてどんどんダブルスとして良くなっていったことなどを評価すべき点として伝えました。「ちょっとずついつも自分が帰ってくる」あの感覚、感じたかと確認するとAさんは笑顔で頷いてくれました。強く実感できたようです。この感覚を体験させられたことが、この大型連休での最大の成功です。ダブルスの劣勢をひっくり返せたことは、そのオマケです。

 

ホッと出来る場所

女子中学生たちにとって、ベンチは帰ってきたらホッとできる場所であることが一番大切です。トップ選手の技術力なら精神と技術を切り離せるようですが、初中級者ではそうはいきません。ましてや彼らはまだ中学生です。精神的にほんの少しでも安定を得られれば、技術も安定していきそれがまた精神の安定を生み…と好循環の流れに乗ることができます。

ベンチでちょっと一息ついて、気分転換をして、「よし!行くぞ!」と次のセットへ向かって行くことができれば、ベンチの最低限の役割を果たせたと考えています。一緒に戦っているんだとか、ベンチで見ていてくれるから安心できる、と生徒が感じられるよう、ベンチに入る人間はふるまわなければいけません。もちろん、これらに加えて的確な戦術的なサポートがあると最高ですが、それが難しいならとにかくメンタルケアに徹します。

ベンチに先生あるいはコーチが入ることにより、生徒にプレッシャーがかかるようでは絶対にいけません。そんなことならベンチに入るべきではないのです。

 

 

(ベンチワーク編 その2へ続く)