身体の動かし方や感覚をどう伝えるか

卓球の何らかの技術が上手くいかない時、どういう風にアドバイスすべきか。今回は細かい技術のやり方ではなく、「技術的なアドバイスの仕方」について考えます。

 

理想は”自然とそうなる”

イメージ通りに体を動かすというのは難しいことです。中学校入学までに運動の経験が少ない女子生徒ではそれが特に顕著で、アドバイスをしてもなかなか改善が見られない場合があります。そんな時、「なんでできないんだ」などと言ってしまうなら指導者として即失格、言わずともそう思った時点でイエローカードです。上手くいかない主な原因は大抵、選手の中にイメージが無い、アドバイスの表現が悪い、アドバイスが芯を外しているという三択、つまりは指導者側の不足です。まずは「どんな感じで振るかイメージはあるかい?」などと口頭で確認し、選手がNoと言えば映像やお手本を見せるべきです。それでも変化が無いとしたら、アドバイスの質が足りないことを疑います。

優れたアドバイスは、そのまま実行すると自然と上手くいくものです。直接的な表現ではなく全く別の場所に作用するような表現を使ったり確実にできる動作から段階を踏んだりして、根本的な問題の解決を目指すのです。

 

例えば下回転に対するドライブが上がらないとしましょう。そんな時に「回転に負けているんだよ」などと、目に見えている現象を言葉にしたところで何の意味もありません。そんなことは卓球を初めて1,2か月も経てば、選手自身が理解しています。重要なのはその先、「下回転に打ち勝つためにはどうするのか」という、方法論です。

第1段階として、スイングを速くする・ラケットのスタートをボールより低くする、などが浮かびます。これだけを伝えて上手くできたとしても、それはその選手の運動能力がその辺の人より秀でていただけで、アドバイスの質が良かったわけではありません。これで上手くいかない場合には、スイングを速くするために/ラケットを低いところに持っていくためにどうするか…と掘り下げなければいけません。

(右利きの場合)スイングを速くするためには右足に体重を乗せてそれを元に戻すエネルギーを使いたい→体重を乗せるためには多少身体を捻らないといけない→体を捻る感覚を身に付けるため、ラケットを置いて左手でボールキャッチをしてみよう…といったように、掘り下げていくと「スイングを速くする」という目的から一見遠い、「左手でボールをキャッチする」という練習に辿り着きます。これが上手くいけば掘り下げてきた手順を逆に辿って、スイングのスピードアップへ帰ります。捻りの感覚が身に付けば、それと同時に沈み込むことでラケットはボールより低いところに引くことができます。

実際にはこんなスムーズには行かないことが多く、それぞれの手順を必要に応じて丁寧に行い様子を見ます。しばらくやってみても左手キャッチで身体が上手く捻れなければ、そのやり方をチェンジ。例えば左足を右足より大きく前に出し、身体を右前方45°方向に正対させるくらいで立たせ振らせてみるなど。

 

卓球の知識が無くても良い指導は出来る

先述のような練習法や表現の引き出しをたくさん持っていると便利ですが、これらは卓球経験が相当積まれていることが前提です。しかしながら、経験が少なくても”良い指導”をすることはできると思います。この章は、そのためのポイントを考えます。

 

大切なのは選手を尊重し、観察し、意見・感想を聞き出し、一つのやり方に固執したり押し付けたりしないことです。

選手を尊重するのは大原則。最初は皆初心者なのですから、シンプルなことができないとしても選手を低く見たり「あの子は能力が無い」などと思うのは厳禁。(教員ならそんなことはない、とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、残念ながらそういう人間がわんさかいるのが現実。)

そして、その選手がどうして上手くいっていないのかをよく観察します。原因を一つに決めつけることは避け、最低三つは原因を推測してみます。こう心がければ腕の動きだけでなく、面の角度、当て方、力加減、上半身と下半身の連動感、立ち方…といろいろなところに気が付けるはずです。(これは卓球あるいは運動の経験が必要…?)人によって動き方の癖や得意不得意が異なりますから、その選手をよく観察することが肝要。

観察した後、アドバイスを考えて伝えます。その際にも一方的な指示でなく、選手に意見があるようなら聞き出します。初心者ならまだ自分のアイデアが出てこないかもしれませんが、経験者であれば何か狙いがあってそういうスイングをしている可能性もあるのでそういうところを聞き出します。その後でアドバイスを伝えしばらく試してもらったら、選手に感想を聞きます。感覚が良くなった/上手くいく感じはあるか、前と変わったと感じるか、やりづらいなぁと感じるところはないか、といったアドバイスに対する感想を求めます。選手自身の感覚は他者には分かりませんから、本人の言葉で表現してもらうのが一番。(それに、中学生にとって自身の感覚や考えをアウトプットすることは脳の栄養にもなります。)その上でそのまま練習を続行するか、アドバイス変更を行うか考えます。

卓球の経験の多少に関わらず、一つのやり方に固執せず押し付けないことは重要です。一つのやり方に固執すれば観察を怠るようになり各選手に合ったアドバイスを考えることもなくなっていきます。指導を押し付ければ選手からのアウトプットを得ようとする姿勢が消え、指導の効率は落ちます。そしてやはり、各選手の特徴を考えての指導ではなくなっていきます。

 

一番危険で何としても避けたいのは、2,3年卓球をかじったくらいの経験を持った教員が逡巡せず指導を押しつけるパターンです。

 

 

知らない感覚/経験したことのない感覚をどう伝えるか

これは私の目下の課題であります。

ドライブ、ブロック、カット、ツッツキ…大抵の技術は身体的動作に関する様々な表現ととオノマトペを用いて、中学始めの生徒たちに伝えることに(ある程度は)成功してきました。しかしながら一つだけ、未だ上手く伝えることができていない感覚があります。それは、粒高での切るツッツキの感覚です。

 

私の中では粒表面の網目にクッと引っかけながらラケットがボールを追い越していくイメージなのですが、これがどうも伝わりません。技術的な難度自体が高めと思いますが、私はスイングスピードに原因があると見ています。しかしながらそれを解消できていないということは、私に不足があるということ。表現を再考する必要アリですが、切る感覚が言葉で簡単に伝わるなら難度はもっと低いはずで、切る感覚に繋がるような手順を考えねばなりません。しかしながら、どういうステップを踏めばいいのかアイデアが出ず困っています。

先代のカット型二人はカールP4を使用していましたが、ツッツキで回転をかけやすいP4を使ってなお、ナックル性のツッツキしかできないまま引退を迎えました。切れたカットとフォアツッツキとの相乗効果で得点が出来ていたのでそれはそれで良いのですけれど、彼女たちがこの先続けることになれば切るツッツキもできた方が良いし、2年生のカット型の選手も可能なら出来るようにしておいて損はありません。今後効果がある方法が見つかれば記事にすると思います。

 

 

 (おわり)