カット型へ移行する一年生のために

小学校5,6年の頃に卓球スクールに通い、オールラウンドエボリューションに裏裏でやってきた選手です。ラケットの頭文字を取ってAさんとしておきます。彼女は先生の意向を発端に、カット型へと移行することになりそうです。私が何度か本人とやり取りをして、カットにチャレンジしてみるという意志を確認しました。今回はAさんのための準備として、変更先の用具や戦型の変更に当たって気を付けるべきことに関してまとめます。

 

 

用具について

最初からカット型として始める選手と違うのは、ある程度弾む用具で基礎を作ってきたという点です。このことにより、デフプレイセンゾーでは弾みや打球感が違い過ぎて難しい可能性が高いです。何が難しいかと言えば、弾みを補うために身体に無理な力が入ってしまうのです。例えば、飛距離を稼ごうと当てる要素が多くなって回転をかける感覚が養いづらくなるなど。ですから彼女には、カット用としてはある程度弾むラケットを試してもらいます。

 

私の手元にあり候補になりえるのは、

  1. ディフェンシブウッド(STIGA、5.4mm、80~85gくらい)
  2. ティルナ(ニッタク、5.4mm、90g)
  3. 松下浩二スペシャル(VICTAS、5.6mm、90g)
  4. 陳衛星(JOOLA、5.8mm、90g)

全て現行販売品であるのがポイント。オルエボは比較的打球感が硬いので、グラスファイバーにより打球感がやや硬めの羽佳も良いかなと思いましたが、私の手元にないことと廃盤品であるので難しい。

すでに二年間卓球を経験しインパクトもある程度強いので、フォア面のラバーはひとまずラクザ7ソフトとし、バック面はカールP1とP4の特薄を試してもらいます。フォア面が同じラバーであることを利用してラケット比較・選択をしてもらい、P1・P4の感触どちらが好きか聞き取りをして組み合わせを考えます。私の手元にスペクトル薄があり、彼女の場合はバックハンドを振る感覚が醸成されていることから、バック表も視野に入れたいところです。しかしながら表にした場合、私と一緒にやり方を探していくことになるので、P1orP4で反転を駆使するようにする方が近道でしょう。表にしろ粒高にしろ反転できて損はないので、今からラケットクルクルを宿題にしていこうと思います。

 

1.ディフェンシブウッド

オルエボと同じスティガ製でメーカーによれば打球感の硬軟はオルエボに近い、スティガのラケットに興味もあったし…と言うことで購入。ラクザ7ソフト厚とカールP4特薄を貼って試してみたが、カット用の中では中間的な弾み。このことはKVUに慣れた私があまり遜色なくカットできたことから分かる。打球感はカット用ラケット特有のあのボコボコとした感じではなく、どちらかと言えばサラサラ系(?)。これを手に響かないというのかな?KVUよりは硬い打球感で球の飛び出しが早く、7ソフトでもなおカットが飛び出していくと感じた。これは合板構成のためなのか、新品で湿気を吸っていないためなのかは分からない。使い込めば今より球を持つようにはなっていくはず。

 

2.ティルナ

ティルナは今回候補に挙げた中では一番弾みが抑えられており、オルエボからは弾みも打球感も一番遠いと思われる。しかしながらこういう弾みの方が粒の嫌らしさは出しやすいし、表ソフトと合わせての実績(王輝選手)もあるので候補に。

かつて私が試してKVUとの弾みの違いに辟易したが、今回Aさんに試打してもらうに当たり再度試してみたところ、以前ほど弾みの違いによるミスは出なかった。ラケットが低弾性であることにより粒高の性質を出しやすく、プッシュも思い切って出来るので台上処理の幅は広がりそうである。ドライブについては回転をかけて飛ばせば弾みは気にならない。これが”しなる”という感覚??打球感や回転をかけた時とぶつけた時の弾みの差などはデフプレイに近いが、弾みはこちらの方がある。

 

3.松下浩二スペシャ

KVUが潰れた時に備えて私用に購入。まだじっくりと試打をしていないが、Aさんに触ってもらうのもアリだなと考えている。他の3候補のグリップは幅広で長方形の角を落としたような形状だが、松下浩二スペシャルだけは正方形の角無しに近いグリップ形状。

ラクザ7とカールP1を貼り、フォアロングと反転してのバックロング・バックハンドブロックをしてみたが、これらの技術での打球感は今までに試したカット用ラケットの中で一番KVUに近い。サラサラ系の打球感でカット用”らしい”ボコンボコンという響きはなく、私好みである。弾みはKVUより控え目で、KVUのブロックに比べて浅くなりやすく止まる。ラケットがエネルギーを吸収している感じがした。これがカットやツッツキにどう活きるか、次の試打が楽しみである。

他の要素は試打し次第追加。

 

4.陳衛星

数年前に購入していたが使うことなく眠っていた。そこそこの弾みなのでアリかなと。こちらも試打し次第情報を追加する。

 

 

戦型を変更するに当たり

私は戦型変更する選手に関わるのが初めてなので、指導する側は戦型変更に当たり、どこに注意して進めていくべきか考えます。私自身が戦型変更した経験を上手く活用できるといいのですが…。

  • 裏裏で培った技術を最大限利用する
  • カット型独特のポイント
  • しばらくは試合で”チャレンジ”

 

裏裏で培った技術を最大限利用する

これは特に、裏ソフトでのバックハンド技術全般。反転さえ身に付けてしまえば裏ソフトでのツッツキやブロックはすでに出来るわけで、これがカット型としてバック粒で始める選手と違う点なのだから反転をしない手はない。特にAさんのバックハンドツッツキは切れていて低く差し込むタイプであり、私の反転ツッツキと似ている。現時点でもツッツキで得点出来ているが、これを粒高でのツッツキと混ぜれば相手はもっと簡単にひっかかる。これはきっと、彼女の得点源になる。

ブロックを使いたい場面は、バックサイドに深いカットを送って相手が回り込み、打点が落ちてクロスに繋いでくると判断出来た時。打点が落ちた瞬間に前に出てストレートにポンッとブロックする。これは得点源と言うより、相手をびっくりさせて攻撃にリスクを持たせるために使う。緩く繋いでいては攻め込まれると思えば強く打ってくれるから失点させられるし、回り込みはまずいと相手が思って足が止まればツッツキさせてこちらのツッツキで変化を付けられる。

ナックルカットを送って浮いたストップに対し、反転してバックハンドを振るのも可能。裏では綺麗なボールが出てしまって取られやすいなら粒高や表でのスマッシュを覚えた方がいいが、今後様子を見つつ本人と相談。

 

何にしても、今までに培った技術は失われないように維持していくべき。それはカットと混ぜて使ってみたり、相手の練習の際に裏ソフトでバックハンドブロックしたりする中で行い、自分の練習では反転を用いたカット型としての練習を行う。こちらでは今までの技術を維持するためではなく、カット型としてのプレーに組み込むことが目的。

 

カット型独特のポイント

カット型に転向するに当たり、気を付けておくとスムーズになる秘訣が二つ。一つはラケットを今までより高い位置に持っておくこと。つまりラケットヘッドが顎の高さくらいになるよう構えておけば、そのまま肩を引くだけでカットが出来る。

もう一つは、定位置を今までより少し後ろに設定し、サーブを出したりツッツキをしたりした後そこにスッと下がる癖を付けること。相手が攻撃してくるならそこから必要な分だけ下がればいいし、ツッツキしてくるならそこから右足を出してツッツキすることでいつ打たれてもカットに持ち込める。

ラケットの定位置と自分の定位置(台との距離)は攻撃型のそれらと違うので、そこを再設定していけばカット型らしくなっていく。

 

しばらくは試合で”チャレンジ”

カット型の練習を積む中で、しばらくは「攻撃型の実力>カット型の実力」という状況が続く。それが逆転するまでは無理にすべてカット型としてプレーする必要はないが、半分くらいはカット型として”やってみよう”と考えることが重要。少しずつ試合で使っていけば、「段々試合でもできるようになってきた」という自信や「この技術はまだまだ怪しいな」という課題が得られるはず。

例え選手が攻撃型らしいプレーをしても、それを否定することがあってはならない。その方が勝てると選手が判断したからそうしたわけで、その判断はきちんと評価して、カット型らしいプレーもあったならそれも同等に褒めればいい。「同等に」というのがポイントで、カット型に転向するからと言ってカット型らしいプレー・得点が貴いわけではない。1点は1点で、それらに貴賤はない。ただし最終的には、誰が見ても「あぁあの選手はカット型だね」と言われるよう支援していく。その中に攻撃型のようなプレーを時折混ぜることで、その両方がより活きるのだ。

世の中には信号機材の英田選手のような、カット型と名乗りながらプレーはオールラウンダーという存在もいる。しかし彼はああいう「カット型だか何だか分からない」プレーヤーとして成功した、非常に稀な例である。最初からああいうプレーを目指すとどっちつかずの失敗作になりかねないので、カット型ならカットを軸として得点が出来るようになるのが先決。もちろんカットと攻撃を組み合わせるのもその範疇。世間のプレーヤーにはカット打ちは出来てもカット攻略は大したことのない人が多い。打てても戦略が無いから、ドカンドカンと打って気付いたらカット型の罠に掛けられ負けているのだ。ということは、その質が平凡でもカット型としての軸ができれば勝てるようになる。そこに辿り着くまでがなかなか大変ではあるけれども、Aさんの場合はすでにそういうステージを通過した私が身近にいるのでなんとでもなる。実際、2,3年生のカット型はそこに辿り着いている。

 

 

(おわり)