卓球と技術のソノサキ

中学卓球部における指導と自分の成長記録の二つがメインです。

戦型と、本人の満足度

今年も新入生が入部する時期が近づいて参りました。そんな折、これまで何度か考えを述べたテーマー「裏裏vsペン粒」論争ーに関して、改めて思う所を書いてみようと思います。

 

卓球の指導に関わる人たちは、中学スタートの初心者に対しシェーク裏裏を勧めたがる派と、ペン粒やカットの異質型を勧めたがる派の二大派閥に分けられるようです。

私は現在、前者の派閥に属しています。

 

 

異質推奨派の語る良さと、それに対する反論

異質を勧める派は異質の良さ、勧める根拠を次のように語ります。

  1. ラバーの性能で、格上にも勝てる可能性がある
  2. 経験者に抗う事を考えたら、裏裏では追いつけない
  3. 足が動かなくても勝てる(ペン粒)
  4. ロング打ちが出来なくても勝てる(カット)

私もかつては異質一派よりでした。私自身が、カットだから勝てた経験をしてきたからです。しかしながら公立中の部活に関わるようになって5,6年が経ち、1年生から3年の夏まで関わる中で、考え方が変わりました。

まずは上記の4点についてそれぞれ反論を述べ、その後で異質推奨派の思考から抜けている大切な要素を挙げます。

 

1.ラバーの性能で、格上にも勝てる可能性がある

もっともらしいですが、まず「格上」とは何か定義すべきです。ここでは5戦して1セットも取れない相手、としておきます。

こうした場合、格上とは技術の総量に圧倒的な差があります。ラバーの性能や戦術でひっくり返せる差ではありません。それらで対応できるならそれは格上ではなく同格だったということです。所詮、手の届くところまでしか勝てません。子供たちに誤った期待を持たせるべきではありません。

正しくは、「ラバーの性能で同格に勝てる可能性が上がる」です。

 

 

 

2.経験者に抗う事を考えたら、裏裏では追いつけない

これは1に近いですね。でもね、少し考えればこれも滅茶苦茶です。

異質にしたところで、同じ練習量では経験者には追い付けません。3年の夏の時点で経験者の練習量の総量を上回る量の練習をこなしてやっと並べるかどうかと思います。

 

仮に理想的な練習量を確保できるとして、公立中の部活に所属しながら経験者に追いつこうというのは難しいです。それを可能にしたいなら部活の練習になど目もくれず、技術の先まで理解している人に個人レッスンを受けながら膨大な練習をし試合の経験を積むことです。

ところが中学スタートの生徒で、そこまで卓球に時間を割こうという酔狂な人間はほとんどいません。

所詮、異質なら中学スタートでも裏裏経験者に追いつけるなど机上論です。

 

 

3.足が動かなくても勝てる(ペン粒)

これは卓球を中学でだけやっていました、という先生にありがちです。短絡的な考えで運動が苦手な子をペン粒にしますが、動かずに勝てるのは相手のレベルが低いからでしょう。最初から足を動かす前提で育てていかないと、3年になる頃に突然勝てなくなってしまいます。

大きく動く必要は確かにないけれど、小さいズレを調整する動きは難しいです。そんなことも知らずに戦型を勝手に決めて人の卓球をグチャグチャして、残酷な話です。

 

4.ロング打ちが出来なくても勝てる(カット)

どうしても面が上に向いてしまう人をカット型にさせる…これもやめていただきたいですね。少しやれば徐々に直ってくる癖なのだから、最初の数か月はフォアもバックも裏ソフトでロング打ちとツッツキをさせつつ力加減を覚えさせるべきです。その後でカットを覚えた方が、力を抜きつつ抑えたり飛ばしたりする感覚は速く身に付きます。

また、カットとツッツキだけで勝てる相手もこれまたレベルが低い話です。全てツッツキされたら勝てなくなってしまう、これでは本人の満足度は地に落ちます。真面目に練習していけばそのくらいの相手と当たるのだから、最初からそこを見据えて育成すべきです。だからこその最初のロング打ちであり、それをベースにしてツッツキ打ちやスマッシュを覚えさせるべきなのです。公立中ならカットだけより+αの攻撃と合わせて戦う方が勝つことができます。攻撃をせず粘りで勝つのは圧倒的な練習量なしには無理です。

 

 

抜け落ちている要素

実は最近、異質推奨派の知人と初心者の戦型の話をし、公立中の部活で卓球を始めることを前提とすると、抜け落ちている要素が多いと感じました。

 

1.個人レッスンのようにはいかない

前説で、「ラバーの性能で同格に勝てる可能性が上がる」だと正しました。

しかしながらこれも、次のような環境を前提としています。

  • 身近にその戦型の打法と勝ち方を指導できる人間がいること
  • その人から個人レッスンに近い濃度で指導を受けられること

これなしには成立しません。何故ならお手本とすべき選手が中学生レベルでは少なく、カットの打法そのものや粒高を操る力加減が難しいからです。

数十年卓球をやってきた人が簡単と感じても、部活だけで習得できるほどその力加減は簡単ではありません。裏ソフトなら当てるだけでも、相手の力で飛んでブロックは入ります。しかしながら粒高は当てるだけにしないと行けないとき、少し押さないと落ちる時があり、また面の調整もシビアです。(その代わり横回転には強くなりますが)

 

裏ソフトは、初心者でもその飛び方を掴みやすいラバーです。先生は未経験者、ほとんど指導を受けられない環境でも1人の経験者が部内にいるだけで、3年生になってなかなかのドライブが出来るようになっている学校があります。一方で、練習量も多く周りに経験者が数名いても力加減に苦しんでいる前陣異質型を毎年生み出している学校もあります。(ただしこちらは指導した先生が未経験者なので、その手順があまりに的を外していたのかもしれません。)

 

 

2.少し勝ちが増えても、本人の満足度は上がらない

入部して半年ほどでバック面を粒から裏ソフトに替えた子にその理由を尋ねると、「弾み方がよく分からなくてブロックが入らなかったから」と答えてくれました。裏に替えて初めての練習で、ブロックもツッツキ打ちもできるようになりました。

粒高を貼っていた頃の難しそうな顔は影を潜め、穏やかな顔でバックハンドを振るようになりました。

 

これは以前書いたかもしれませんが、昨年度卒業した代には強力なプッシュを繰り出すペン粒の選手Aさんがいました。団体のレギュラーであり、欠けると戦力が落ちる大きな存在です。そんな彼女の口から何度か聞いたのは、カット型が羨ましいという言葉でした。曰く、

カット型は裏ソフトも使えるし、前でも後ろでもできる。私には粒しかない。

粒しかないと言った彼女の諦めたような顔は忘れられません。

 

同じ学年に、シェーク裏裏のBさんがいます。Aさん同様中学スタートで、同じ環境で練習してきました。彼女から裏裏への不満は聞いたことがありません。最後にはフォアドライブの安定と威力を手に入れ試合でも実践でき、満足して終えたようです。

 

AさんとBさんで試合をすると、恐らくAさんが上回ると思います。対外的な戦績は明らかにAさんの方が良かった。それでも、満足度はBさんの方が高いのです。

粒と違って裏ソフトは、自分からスイングすることができます。ボールのスピードも出て、爽快感があります。速いボールで相手を抜き去ったり、テンポの速いラリーを制したりと、自分で得点している感を強く得られます。

 

本人がとかく勝ちを望んで戦型は二の次と考える場合や、よく分からず始めたけれどその戦型を受け入れ満足している場合を除き、多少の勝ち数の変動は満足度に大した影響を与えないようです。

勝てるからその戦型を勧めるというのは、仮にそれが正しかったとしても、大人のエゴを押し付ける暴力になりうるのです。

 

 

改善策の提案

最後に、私の改善策をご提案して終わりにします。

これは関西の強豪公立中で採られていた方式で、まず新入部員の数に応じて各戦型の枠人数を決めます。その後で各戦型のトップ選手の試合を見せ、希望選択制で枠を埋めていくのです。

 

仮に、ある戦型希望者が0人だったとしましょう。その際にはその戦型の良さ、他にはない優位性を語り、練習していく中でそれとなく向いていそうな選手に声をかけてみます。それで本人が乗り気になれば転向も良いでしょう。

しかしながらその戦型を本人が受け入れられない場合は無理強いすべきではありません。異質対策はOB・OGを使ったり外部から人を呼ぶことで代替することができます。

団体戦でオーダーの幅が出ないことを気に掛ける方々は、戦型以外の部分でカバーしようとする考え方に切り替えてください。

 

戦型の幅広さは、卓球競技の奥深さの一つです。ですので、カット型や前陣異質型を排斥すべきとは考えていません。予選を抜けるために、部内で異質対策もできた方が良いでしょう。しかしそのために1人の人間の幸福感を奪うのは間違っています。

 

 

 

(おわり)