どう責任を取るのか

私のレッスンを受講している、ある女子中学生のお話です。

 

 

なぜか火が付いた

今回お話しする選手のお母さんが九州出身なので、Kさんとしておきます。

 

現在中学2年生のKさんは、県大会で1回勝つことを目標にして日々練習に励んでいます。今でこそ勝つことに貪欲になってきた彼女ですが、昨年の今頃は勝ち負けに対して”ドライ”でした。

 

彼女の場合は冷めているとは違って良い方向にドライで、勝ち負けを意識しないから緊張しないし、試合中のミスも気にせず切り替えて次に行けるし、それでいて試合には集中して臨めるという、勝ちを欲するプレイヤーであれば喉から手が出るほど欲しい精神状態を初めから兼ね備えていました。

中学スタートでありながら、レシーブの構えをした時のKさんの表情はまるで全国大会常連のような様相で、相手を射抜くような眼光が大変印象的でした。「この精神力と佇まいに見合った技術が身に付けば化けるぞ…」と、ある種の天才性を見たように感じていました。

 

そんなKさんでしたが、2年生になった辺りからでしょうか。段々と勝利への欲求が芽生えていったようです。

 

 

本気になったから苦しい

私がカット型の選手とマンツーマンで秘密練習していることを知って、今年の6月頃でしょうか、もう一人の2年生と一緒に「私たちも参加したいです!」と申し出がありました。

なんやかんやで秘密練習に参入したのは9月になってからでしたが、しばらくは週1で、日が短くなって部活の終了時間が早まってからは週2で練習するようになりました。

 

 

そんなこんなで卓球に対して本気になってきたKさんは、最近試合で緊張するようになりました。また、ミスに対してこれまでなかったような「あっ」という身体的リアクションが見られるようになりました。

本人は緊張するようになった自分にやや困惑しているようですが、私はある意味良い傾向だなと見ています。

 

勝ちたいと願うから緊張するし、真剣に練習するようになったからミスによるショックが大きくなるし、「あれだけやっているのになぜできないんだ」と落ち込んだり不機嫌になったりします。選手本人にとってはこれらは大変な厄介者たちですが、サポートしている側からすればそれらは選手が本気になって打ち込んでいる証拠ですから、肯定的に捉えています。

こういう所で以前と変わらずプレーできるのは本当の天才なのかもしれません。でも、緊張する方が人間らしくていいじゃない、と思うんです。我々は卓球競技でご飯を食べるわけでもないし、負けて炭鉱に送られるわけでもないし。卓球を選んだことで総じて幸福度がプラスになればそれでいい。

 

中学生の大会は「また来年」とは行かないので、緊張することは避けられないと思います。この緊張と、なんとかうまく付き合えるようにサポートしていきたいところですが…。

 

 

どう責任を取るのか

秘密練習を週2にすることは、私から提案しました。というのも、週1のレッスンだけでは県大会に行けることを保証できないと考えたからです。

彼らが勝ちたいと言ってやっているとは言え、その先で努力が強制されたり厳しさを押し付けられたりすべきではないと考えています。ですから週2を提案する際にも「週2回来なさい」ではなくて、上記のような保証のお話をしました。「週2で続けていけば、「まぁあなたなら、県には行けるでしょう」と言えるレベルまで、きっと達するよ。でも週1だとその保証はできないかもしれない。」と。

 

緩やかな脅しかもしれません。でもそれは彼女の受け取り方次第。毎週水金の練習で水曜日に金曜の参加確認をしていますが、「気が向いたら行きま~す」と言いつつ何だかんだ毎週金曜にも練習しています。週2でやることに納得しているようです。

「(○○のためには)××をやりなさい」ではなく、「○○を成し遂げるような人は××をしているよ」という言い方の方が強制感は薄いでしょうね。

 

女子中学生が3人も集まって練習していますと、まぁお喋りしながら打っている時間もあるわけです。彼らはまだ、本気で練習している人たちを見たことが無いので致し方なしとも思います。しかしながらそういう時間が少なくなるほど練習の密度は上がります。

そんな時には30往復続ける目標を課したり、練習終わりにやんわりと伝えます。「あの感じではねぇ、試合で使えるようにはならないよ。」と。(字面だと冷たいですけどね、やんわりとですよ。)

その場で「黙ってやれ!」だの「集中しろ!」と叱責するのは、私の置かれた環境では不適切と思います。そういうことを繰り返していくうちにやらされている感は強くなり、やがてコーチの様子を伺いながら練習するようになります。本人の闘争心や卓球へののめり込みが圧倒的であればそういう叱責も障害にならないかもしれませんが、人間関係は歪になるように思います。

 

話が逸れてしまいました。

Kさんが週2でレッスンを受けるようになり、私の目から見てもそこここに技術の進歩が見られます。相手によっては試合全体を支配することが出来るようになってきました。

一方で精神的な変質や技術向上の停滞は心配でもあります。これらがネックとなって思うような結果が出なかった場合、すなわち県大会にも行けないような事態にもし直面したら、私は一体どうやってその責任を取ればよいのでしょう。時々ふと、言いようのない恐怖が脳裏をチラつきます。

そうなったらきっと、浮き沈みの小さいKさんでもひどく傷つくでしょう。その時にどうやって声を掛ければ良いのか、謝れば良いのか。今のところ答えは見つかりません。

「ごめんね」では済まないと思います。

 

だからこそ、下準備を丹念にしていかないといけません。それも本人に気付かれないようにジワジワと。技術を試合で使えるよう練習メニューやポイントを精査し、試合前の準備や大会での心構えなど精神的な技術も仕込んでおかなければいけません。

彼女が本気になったからこそ私も本気で応え、彼女の総体まで見届けたいと思います。

 

 

(おわり)