市総体所感 Part3.1 ~打法と戦術について 打法編~

前回は、打法や戦術以前のお話でした。

今回は、実際に打つとなったらどうするの、というお話。打法についてです。

戦術については次回に続きます。

 

 

 

1.同じモーションから、多様なサービスを

教えられる人間がいない環境で育った選手でも、それぞれに工夫して色々なサービスを出す様子は見られる。人がやらないようなモーションから繰り出されるサービスは、取りづらい。見慣れていないので、本番の試合では戸惑ってしまい対応が遅れるからだ。

ところがユニークで取りづらいサービスでも、モーションが全く違っていては効果が半減してしまう。

 

直前まで同じ動きから突如として違う動きへ切り替えたり、ラケット軌道の中で当てる場所を変えたりして、相手を少しでも騙すことが重要だ。ここで騙すのは回転だけでなく、コースも同様だ。同じ回転でも同じモーションから色々な場所へ出てくるサーブは厄介である。

トップ選手同士の試合でレシーブミスが出るのは、巧く騙しているからに他ならない。あのレベルであれば、分かっているものは全て厳しいボールで返球できるのだ。

横と思って触ったら下だったからネットミスになるのであって、ただ下回転を強くかけるだけでは相手に嫌がられるサービスにはならない。

 

これは指導者がサービス練習をよく見ながら、時にレシーブをしながら、直前まで同じモーションになるよう指導していく必要がある。

 

あるいは一つの考え方として、サーバー自身が”自分を騙した状態”でサービスを出すことは有効だ。つまり、打球の直前までバックへロングサービスを出すのだと思い込んでおいて、直前でフォア前へのサービスへ思考を切り替えるのだ。こうすれば自分が直前までロングサービスを出すつもりでいるのだから、相手から見てもロングサービスが来るように見える。まずはサーバーが自分を騙さなければ、相手にバレてしまう。

そうやって練習を繰り返して同じモーションが身に付けば、意識せずともできるようになる。

 

相手が本当に初心者であればこちらの動きが見えていないので効かないが、少し出来る選手であればモーションにより騙すことが可能になってくる。中学スタートで県大会を目指すのであればこれは不可欠である。

 

 

2.回転がかけられなくても良いサービスは出せる

サービスには、回転・コース・スピード・高さ・分かりづらさなどの要素がある。最初のうちは強い回転を掛けるのは難しいから、それ以外の要素に焦点を当ててサービス練習をさせることだ。それらの要素で良くできた点があれば褒めて、サービス練習は面白いものだと思い込ませてしまう。サービス練習を好きになって繰り返していくうちに、回転量は段々と増してくる。

逆に初心者のうちにサービスだけが切れすぎると、切れて低いツッツキや横の影響を受けて揺れるようなレシーブが返ってきて、自分の首を絞める恐れがある。

フォア・バックハンドのレベルが上がっていくにつれて、サービスの回転量も増していけばそれでよい。

 

中には練習をしても回転量が一向に増えない選手もいるだろう。そういう場合は、サービスの高さとコースと長さを徹底的に鍛える。

回転がかからないということは、切ったモーションからナックルが出るという事。これは”良質なナックルサービス”と呼ぶことが出来る。それをネットすれすれに出すことが出来れば、強く打つことは難しくなる。

また、サービスの長さを四種類用意させる。ネット際に止まるショートサービス、相手コート深くに突き刺さるロングサービス、2バウンド目がギリギリ台から出るサービス・出ないサービス。

これをフォア・ミドル・バックのコースに出せば、サービスは12種類となる。そうなれば相手は簡単にレシーブからアタックできない。これは武器になる。

 

相手がモーションに騙されればレシーブは浮いてくるし、回転がナックルしかないとバレてもコースを読ませずに出せれば合わせるようなレシーブが返ってくる。前者の場合は下回転が強い浮いたボール、後者の場合はレシーブが上気味のナックルか下気味のナックルになるから、それらを狙い撃ちする練習を積んでおけば良い。

 

回転を掛けられないなら、それを武器として使う方向へ持って行けばよい。これは競技的にも有効だし、さらには子供たちの成長にとっても良い影響を与える。弱点だと思っていたものが強みに変わるのだから、これほど自信になることはない。

 

 

3.フォアハンドを強化せよ

現代卓球のスタンダードはフォア・バック両方を同程度使っていく両ハンド型であるが、中学スタートで優先的に鍛えるべきはフォアハンドである。

 

理由は以下の4つ。

  • 県大会出場を目指すレベルで考えれば、巧くサービスを出すことでフォアハンドで3球目攻撃をしていくチャンスは作れる。
  • フォアハンドであれば正確な下回転打ちから上回転に対する強打まで、中学スタートでも十分に習得可能である。つまり失点が少なく、得点にも結び付きやすい。
  • 中学スタートの女子選手に限定すれば、バックハンドで下回転を持ち上げてからでは良い展開にはならない。一生懸命ドライブしても相手が苦労するようなボールは出ず、簡単にブロックでコースを突かれたりカウンターを食らってしまったりする。
  • 3球目攻撃をフォアハンドで打つことで足が動き出すため、そのラリー中軽快に動きやすい。このことはひいては試合全体でのフットワークに良い影響を与える。バックを使うと足が止めざるをえないので、段々とフットワークが悪くなりがちである。こういう点にもフォアハンドのメリットがある。

 

もちろん、バックハンドを強化しないということではない。3球目攻撃を全てフォアで行くのは現実的ではないから、合わせるようなレシーブを狙い打ちできるバックハンド、ラリー戦になってからの甘いボールを厳しく攻められるバックハンドは何としても身に付けなくてはならない。

 

また、選手の個性を伸ばすことを考えるとバックハンドをどんどん強化する選手がいても良い。ただし、フォアハンドの方が貧弱であってはならない。どんなにバックが強い選手でも、身体を大きく使えるフォアハンドの方が決定打になりやすいからだ。

フォア≧バックであるのが基本的なバランスだ。

 

バックハンドでの3球目攻撃をするとしたらツッツキレシーブをさせるようなサービスは避け、ロング戦に持って行けるようなサービスを出すべきである。

上回転に対してはバックハンドはむしろフォアハンドよりも容易であるから、これは中学スタートであっても問題なくできるようになる。

 

端的に言ってしまえば、上回転やナックルボールに対してのバックハンドは習得すべきで、バックハンドでの下回転打ちは後回しにせざるを得ないということである。

バックハンドでの下回転打ちをしないようなサービスの組み立てをすれば、そこの脆弱性はなかったことに出来る。

 

4.打つのではなく振り切れ

フォアハンドを鍛える過程で決定打の習得にも取り組むわけだが、軽打から強打まで共通して意識すべきは「ラケットを振り切ること」である。力を入れすぎず、テイクバックを取りすぎないで、スイングは振り切る。こうすることでラバーにボールが”くっつき”、ドライブの軌道が作られてコートに収まる。

普段から力んで厚く当たってオーバーしてしまう選手は、打球する瞬間を意識しすぎてそこに力を入れすぎてしまうのだ。そんな時に、打つのではなく振り切るというイメージは有効である。

 

また、強く打とうとしてテイクバックが大きくなると、力加減を誤ることや打点が遅れることに繋がる。まずはテイクバックはほぼ取らず、ラケットはボールの後ろに”置く”イメージで準備し、ボールがラケットに触れるくらいまで待ち構えてからスイングを開始。ボールが当たってから大きく振り切ればドライブの軌道を作れる。イメージとしては、馬龍のスイングからテイクバックを無くしたようなスイング。中国ラバーでなくても、後ろに置いてそこから振り切る場合は、こういうイメージである。

 

f:id:MARX:20190620114134j:plain f:id:MARX:20190620114200j:plain f:id:MARX:20190620114226j:plain

ここからスタートして…

 

f:id:MARX:20190620114319j:plain f:id:MARX:20190620114330j:plain

ここまで振り切る。

力は抜いて、スイングで風を切る音が聞こえるように。スイングは腕を振るというより、腕ごと動かしたい。つまり実際に運動するのは肩である。

こうすると初めて半年の中学生でも、下回転を簡単に打てるようになる。ボールの重さを感じなくなるのだ。

 

 

振り切ることで回転は増していく。それに踏み込みが加わればボールがリリースされるポイントが相手からして近くなるので、コースが読みづらい上に襲い掛かられているような印象になる。これは、取りづらいドライブになる。

力を入れすぎずに振り切るという癖をつけておけば、試合で緊張しても当たりすぎてオーバーということはなくなる。

 

まずはテイクバックをほぼ取らないスイングで練習し、振ればすべて入るような安定感を身に付けて来たら段々とテイクバックを取っていく。テイクバックは、小さいより大きい方が威力が出る。トップ選手は力加減や打点をきちんと習得しているから、あれだけ大きくテイクバックを取っても正確に打球出来るのだ。あれをそのまま初級者にまねさせるのは難しい。

 

 

5.右足で合わせて、左足は大きく

これは回り込んで打つ時やミドルへのボールをフォアハンドで打球する時のポイントで、私が先日レッスンを受ける中で気付いたことである。

 

右利きで考えると、どの位置でフォアハンドを打つにしても打球点は自分に対して右斜め前になくてはならない。逆に言えば、右足はボールに対して左側に来ていなければいけないということ。

だから回り込む際には右足をまずボールに合う位置に持って行って、そこから上体を支えるための左足を大きく左側へ持って行く。だから、右足で合わせて左足は大きく、なのだ。

この時、右足は左足の後ろを通過して問題ない。むしろ自分の左側に来たボールに対して回り込もうとする時にはそうしないと右足の位置が合わない。

私はこれまで「右足を左足に寄せてから左足を大きく」と指導していた。これでは足りない、誤りであることに気付いたので、それ以来ここの指導内容を刷新した。

 

 

6.フォアハンドを使うための立ち方

 両ハンドタイプでもフォアハンドは使うわけだが、ここでは回り込んでフォアハンドを使うための立ち方について触れる。

回り込みの動線を考えると、身体は台に対して並行よりも少し右斜め方向へ向いていた方が良い。具体的には、身体の正面で打ったバックハンドが相手のバックコーナーへ向かっていくような角度で立っておく。こうすればバックも問題ないし、フォアサイドからのフォアハンドもクロスに突き刺さる。回り込みもしやすい。

 

張本選手や多くの女子選手のようにバウンド直後をとらえてピッチの速さで勝負するタイプは台と平行に立ってフォアハンドも右足前で打つことがあるが、バックサイドからフォアを使いたい場合は先述のような立ち方をするのが良い。

一見前時代的な構え方に思われるかもしれないが、バックハンドの名手と言われた張継科でさえ、台に平行ではなくやや斜めに立った状態で両ハンドを使っている。そもそも彼のプレーを見る中で気付いたことなのだ。

 

 

私が見ているのは主に女子選手であるが、トップ選手のような高速ピッチ卓球が出来るまでには至らない。つまり、女子とはいえラリーにそれなりの間はある。であれば男子のプレーを参考にしても、テンポという観点では問題ない。

 

 

(つづく)