第2回では、中学スタートの選手が最初に買うべき用具を提案しました。その際、最初は基本的にシェーク裏裏で始めるべきと書きました。今回はその理由と、他の戦型へ移行する際の判断基準や移行の時期、留意点などについてまとめます。
なぜ最初はシェーク裏裏か
簡単に言えば2つ理由があります。1つはできることが多い、もう1つは卓球の基礎を覚えるのに都合が良い、ということです。
卓球においてできることは裏ソフトが一番多いです。確かに表ソフトや粒は裏ソフトでは出せないようなナックルを出すことができます。その反面、回転をかける性能やスピードを出す性能を犠牲にしています。裏ソフトであれば技量は要るものの、回転を抑えた打ち方もできますし、スピードを抑えることもできます。できることが多いというのは、プレーする楽しさに繋がります。
また、打球の力加減や回転を掛ける感覚を覚えるのには、裏ソフトが一番適しています。この2つの感覚は、いずれ表ソフトや粒高へ移行するとしても重要になります。つまり、裏ソフトから始めた方がどの戦型を選ぶことになったとしても成長が速いということです。
指導者によっては、運動が苦手そうだからと最初から粒高を使わせる場合がありますが、これも避けるべきです。粒高は裏ソフトと違い、弾みや回転が不規則です。そのため「卓球に慣れる」ことが難しくなり、その子の可能性を狭める恐れがあります。裏ソフトでボールに慣れてから粒高に移行した方が、中・長期的に見て成長量は多くなります。
卓球の楽しさや選手個人の可能性を最初から制限すべきではありません。よって、裏ソフトを最初に使うべきと考えています。
3か月~半年経ったら分岐をしていく
サービス、フォアハンド・バックハンド、ツッツキを覚え始めたら、それぞれの希望や適性を踏まえて目指す戦型を選手と相談します。部活動ですと、夏休みが終わって9月頃でしょうか。Youtubeの動画を1年生に見せる、「座学の時間」を設けることが出来るなら、それが一番良いです。あるいは、上級生にいろいろな戦型がいるなら、新人戦で実際にその試合を見せるのも良いでしょう。
戦型を選ぶにあたり大切なことは、選手自身が納得した上で決定することです。指導者が行うのは適性を見極めることであり、本人の希望を無視して強制することではありません。確かに、団体戦のことを考えると、カット型やペン粒の選手がいて欲しい場合があるかもしれません。しかしながら、本人の希望を無視してまでチームの都合を優先するのは、一般的な公立中学校の部活動においては異常です。たまたまでも卓球を選んでくれた子供たちが、卓球をやってよかったと思えるような指導をお願いしたいです。
仮に適性があって、望まぬ戦型で勝てたとしても、本人が卓球を楽しめるかどうかとは別の問題です。「粒高でいくらか勝ちが拾えたかもしれないけれど、やっぱり私は裏ソフトで速いボールを打ってみたかった」、といって中学の部活を終える選手もいるのです。
変更した方が勝てる可能性が高まる場合はその理由、また、それぞれの戦型の特徴やメリット・デメリットをきちんと説明した上で、最終的には本人に判断させることが大切です。
戦型への適性
戦型の変更には、適性を活かすものと、苦手をカバーするものがあると考えています。
適性を活かす場合は、どういうテンポや展開のラリーが得意か、どんな打ち方が得意かを見つつ、本人の思いも聞き取ります。例えば、素早い動きや上回転の速いラリーが得意ならバック表、ゆっくりしたテンポのラリーの方が良いのであればバック粒高が向いていると言えるでしょう。カット型については、ゆっくりしたテンポに見えても移動が大きく技術習得も難しいので、カット型をやってみたいという強い思いや憧れがあることが何よりの適性だと思います。
苦手をカバーするための変更としては例えば、「裏ソフトのバックハンドが上手くコントロールできないが、表ソフトであれば裏ソフトよりもコントロールができる」というケースがあります。これは、私が今まさに関わっているケースです。特に指導者が常駐できない環境では、用具を変更することで技術的な問題を低減できる場合があります。それでたくさん入るようになって選手が納得し「これに替えたい!」と言う場合は、変更するのも良い選択でしょう。苦手をカバーしているように見えて、実は表ソフトが向いていた、という捉え方もできますね。そういう言い方をしてあげると、選手はそう信じて頑張ることができ、予想以上の成長を遂げることもあるでしょう。
ただし、これらの特徴があるからと言って必ずしも両面裏ソフトから変える必要はありません。到達できるレベルに当然個人差はありますが、練習する中で各選手の敏捷性や技術レベルは向上していきます。適性からの判断も大切ですが、本人の気持ちや部活動・学校生活との兼ね合いもきちんと考慮した上で選択していただきたいです。向いていないな、他の戦型の方がいいな、と思っても、選手がこれでやりたい!という強い思いがあるのであれば、指導者は選手の可能性を信じて応援していきたいものです。
(おわり)