怪しいマジックワード

マジックワードとは、「多様な状況で使える便利な言葉」を指します。

今回は卓球におけるマジックワードの危険性と、これが乱用される背景について考え、解決策を探ります。

 

 

 

マジックワードの危険性

「分かったような気になるけれど何も分かっていない」状態を引き起こすのが、マジックワードの危険性です。どんな状況にも当てはまる言葉ですから、この言葉を使うことでなんとなく皆の腑に落ちます。しかし実際には具体性に欠け、詳しいことの説明には至りません。

誰にでも簡単に使えるので、分かったつもりになっていることに気付くことすら出来なくなります。マジックワードを多用する人は、完全に「分かったつもり」状態です。指導する立場にいる人間がこの状態ですと大変困ります。思考がその先に行っていないので考えが浅くて狭く、「それはどういうことですか」と聞いてもうまく説明が出来ない可能性が高いです。最悪の場合、そういう人にそう尋ねると怒り出すかもしれません。(そこでハッとして変わっていく人はちゃんとした人だと思います。そうでない大人はもうダメですね。)理解不足を自覚することがないまま、漠然とした言葉を投げ掛けられるのは選手にとっては迷惑な話です。

 

マジックワードが使用されがちな場面

マジックワードが活用されるのは、分からない状態から抜け出したい場面です。そもそも人間は非物質や抽象的な事象に名前を付与することでそれらについて思考することが出来るようになりました。ですからマジックワード自体はありがたいものです。名前を付けなければ議論が始まらないのです。しかしながら、マジックワードでは「分かったつもりにしかならない」ことを理解しておかなければなりません。マジックワードで事象を捕らえ思考できる状態にしておいて、そこから先に進まなければマジックワードの利便性は一転して害となります。

 

マジックワード因数分解せよ

ここからいくつかマジックワードを挙げ、それらを私なりに因数分解します。つまり、漠然として曖昧なマジックワードを、それを構成する具体的な要素に分解していきます。卓球に限らず、いろいろな場面で使われています。

 

「大丈夫」

試合中、選手にベンチから声がかかります。「大丈夫だよ、いけるいける!」。あるいはセット間にもかけられるかもしれません。

声をかける側は善意で言っているのでしょうが、このような言葉が問題を引き起こす場合があります。それは何らかの理由で選手の気持ちが落ち始めている時時です。例えばミスが続いてネガティブモードになりかけているとき、上記のような言葉を掛けられたら。その人との関係にもよりますけれど、私なら「何が大丈夫なんだろう」と疑問が浮かんでしまいます。あまり良く思っていない相手なら、なんだか無責任だな、他人事なんだろうな、などと思います。このような場面では「大丈夫」という言葉は毒になります。

 

選手を励ましたいとして、どの点が上手くいっているかをよく見て考えてから発言すべきです。つまり、失点したけれど方針・狙いは良かったとか、コースは少し外れたけれど力加減や打ち方は良かったなど、具体的に良かった点を見つけた上で、「~は良かったよ、大丈夫だよ」などと声をかけるべきです。根拠のない大丈夫は卓球未経験の方でも、試合を観ていない人でも、誰にでも言えます。ベンチにいるならその先に行かなければ、スタートラインにすら立てません。

 

大会にもよりますけれど、(カデット以下の大会は禁止だったかな…?)昨今ではポイント間にベンチからアドバイス要素を含む声をかけて良いようにルール改正が成されました。このルール下では、漠然とした言葉だけではもったいないです。

 

「経験を積む」

「試合をたくさんして試合経験を積む。」

ここで言う「経験」とは一体何でしょう。その正体をある程度分かって使うなら頷けますが、なんとなくの使用が多いように思います。

 

「試合経験を積む」を因数分解すると、次のようなことを試合を通じて理解することです。

  • 連続で失点した後にタオルを取って間をおいたら流れが変わった。
  • 練習での精度を10としたら試合ではせいぜい6~8くらいしか出せない。
  • 自分では意識していなかったけれど意外と私のこのボールを相手は嫌がる。
  • ”強い”選手は大事な局面で何か仕掛けてくる。
  • 勝ちを意識したら気が緩んだつもりはないけれど逆転されてしまった。

まだまだたくさんありますが、こういう”因数”をいくつか事前に選手に仕込んでおきたいところです。せっかく試合をするのですから仕込みなしではもったいないです。試合会場に行ってからでは間に合わず、ただ試合をするだけでも明確に理解できません。言葉にして伝えることでくっきりとした理解に繋がります。試合をして何か選手が経験したらそれを言葉にしてやり取りし、選手の理解を後押しすることも大切です。

 

ここでは二つを例に挙げましたが、数え切れないほどのマジックワードが乱用されています。私も乱用者にならないよう、自分の発言を時々因数分解しないといけません。

 

 

まとめ

マジックワードはそもそも便利な言葉です。しかしながらこれを使ったその先が重要です。

まずはマジックワードで状況を言葉にし、その後でその状況を”因数分解”するとマジックワードの真価が発揮されます。分かったつもりにならないよう、そういう思考の癖を付けていきたいものです。

 

 

(おわり)