今回は練習メニューや技術の指導法など技術に着目した内容ではなく、「卓球で言う頭の良さ」をいかにして伸ばしていくかについてです。
選手はもちろんですが、指導者の立場にある人間にとってより重要なことです。私も含め、コーチへのコーチングが必要だからです。
Ⅰ.「卓球で言う頭が良い」とは
初心者、あるいは卓球歴が短いのに色々なボールに対して対応が出来る。これを見て「あの子は頭がいいから…」と言う人がいます。しかしこれは運動能力(=頭の中のイメージ通りに身体を動かす能力。≠身体能力)や空間把握能力が優れているのであって、頭が良い(≒思考が働いている)こととは違います。
「卓球で言う頭の良さ」は、以下の点で評価できると考えます。
- 得点パターン/方針を論理的に考えることができる
- 試合内容をもとに、練習すべきパターンを考えられる
- 試合の進め方を理解できる
中学校には、小学生の頃から卓球をしていて基礎技術は一通り出来上がっているA群と、基礎技術を身に付ける、あるいは安定性を高めていくべき段階のB群とがあります。「技術練習のその先」と題しておりますが、A群に属する選手だけでなくB群の選手においても、基礎技術の練習と並行して上記のポイントを随所で意識させていく必要があります。
Ⅱ.「頭の良さ」の詳細とその価値、仕込み方について
ここからはⅠで挙げた3点について、それぞれの詳細とそれによってどういう良さが出るか、またそれらを中学生にどうやって仕込んでいくかについてまとめます。
1.得点パターン/方針を論理的に考えることが出来る
自分が得意なボールあるいは相手に効いているボールから逆算して展開を考える能力です。これは戦型や相手のレベルによって様々なので、ここで例を挙げるのは避けます。
3,5球目くらいまではサービスとセットで考え練習しておきますが、試合においては得点するまでの細かいルートを考えるというよりも方針を考えること、つまりは自分が得点出来るパターンをざっくりと、方針として持って試合に臨むことが重要です。例えば「サービスはロングサービスを多くして、たまに見せ球としてショートサービス。出来るだけ自分から下回転に対してドライブしてブロックを狙っていこう…」とか、「相手に持ち上げさせてカウンターした方がいいから、サービスはギリギリ出る長さ、レシーブは切っていこう…」など。
こういうことを意識していくうちに方針の正しさを判断する能力が培われていきます。「方針は合ってる、やってることはあっているから、ミスは多少出るけれどこれを止めずにやっていこう」と選手が考えられるようになれば、ちょっとしたミスによる動揺が減っていきます。そうなるとセット間の1分間をメンタルケアのために使わず、作戦・方針の確認に充てることが出来ます。
論理的に展開を考えることを仕込むには、大会会場で選手と一緒に「組み立てのある試合」を観ながら展開について話すことが有効と思います。ああいうプレースタイルなら、今みたいなサービスからああやって打って行くといいよね…とか、相手がああいう戦型なら今みたいなボールが案外効くんだよ、などと実際のプレーを観ながら伝えていくことでイメージが掴みやすく、頭に入りやすいからです。
また、団体戦や練習試合などで台のそばまで他の選手が行ける場面を利用し、セット間のやり取りを聞かせるようにします。特に私が見ている学校ではA群のような選手が存在しますので、セット間にベンチに戻ってきた彼らのそばにスッと行けば試合中何を考えて得点しようとしているかを聞くことが出来ます。そこでどういうアドバイスが送られているかも聞けるので、いざ自分の試合になった時にそれらを自分で思い出してプレーすることが出来るようになります。
卓球を初めて間もない子供たちには、こういう知恵を仕込むかどうかでその後の成長や試合内容の質が大きく変わってきます。
2.試合内容をもとに、練習すべきパターンを考えられる
試合になってから得点パターンを考えるのは遅すぎますので、普段からパターン練習を行って準備し→ゲーム練習や練習試合で試し→内容を反省して練習を再構築…というサイクルを繰り返します。試合において展開は良い(得点が見込める)のにミスが多い場合は同じパターンを重点的に練習したり、技術単体で練習したりして対応します。どの段階で同ミスが出るかによって練習の内容が決まってきます。
指導者の理解度によっては、ここで大きく的を外す可能性があります。例えばペン粒の選手が強打をブロックできていないから強打を取る練習をさせようとする…。これではいけません。強打をいかにして避けるかが守備型に分類される戦型では最重要です。
試合内容から練習メニューを考えることの価値を普段から選手に伝え、最初のうちは指導者が誘導するのが良いでしょう。最近私が経験した例をご紹介します。
(小5,6で卓球を習っていたシェイク裏裏のAさん、中1。A群とB群の狭間のようなレベル。)
A:三球目攻撃の練習がしたいです。
私:じゃあ、試合でよく使うサービスはどんなの?
A:フォアサイドに下回転です。(実際に出してみてもらう)
私:このサービスは、どういうレシーブを相手にさせたいのかな?何が狙いかな?
A:え…うーん…(困ったように首を傾げる)
私:君が下回転を打つのが得意なら、相手にツッツキをさせるためにツーバウンドさせる。上回転を打ちたいなら台からギリギリ出る長さにして持ち上げさせる。どっちがいいかな?
A:相手に持ち上げさせたいです。
私:それを君はどこから打ちたいかな?
A:フォアサイドから打つ方がいいです。
私:じゃあ僕のフォアサイドに、台からほんの少し出るサービスを出そう。そうすれば相手は持ち上げるかツッツキするかしかなくなるし、ドライブならフォアサイドに返ってきやすいよね。僕がクロスにドライブでレシーブするから、それをストレートに打ち込んでみよう。
このようなやり取りの中で、自分がどこから打つのが得意か、どうしたらそこに持って行けるかを少しずつ学んでいきます。こうやって組み立てた練習では各技術間に繋がりが生まれ、まさに試合で使えるパターンの習得ができます。また、一方的な指示ではなく選手の意思を汲み取っているように思えるため、選手の満足度も高くなります。(実際には有効なパターンに、こちらが誘導しているのですけれど)
こういうことを繰り返していけば、徐々に自分たちで試合内容を整理しそこから必要な練習を組み立てることが出来るようになっていきます。
3.試合の進め方を理解できる
細かい戦術・戦略というよりも、試合全体に関することです。いくつか例を挙げます。
- 試合前の乱打に入る前に、1セット目での方針をざっくりとで良いから確認すること。選手自身でも良いし、ベンチに入る人間と軽く確認してもいい。
- 自分にとってプラスになるように声を出せばいい。無理に出す必要はない。
- 流れが悪くなった時には間を取って一呼吸置く。タオリングも積極的に使い、そこで方針の確認をする。
- 技術力に圧倒的な差が無い限り、セットカウント2-0になってからが本当の勝負。油断していないつもりでも無意識にプレーが甘くなってしまうことがあるから、今一度気を引き締める。
このようなことをまず指導者が理解し、選手に伝えねばなりません。普段から全体に伝えたり、練習試合で各選手に個別に伝えるなどして少しずつ定着させていきます。こういうところで指導者がプレーの支障とならないようにしてもらいたいものです。こと中学校の先生方には、教育的指導を試合に持ち込むなと言いたいですね。
ここは勉強で言う知識問題のような性質を持っています。こういう考え方があるんだと知っておくだけで、試合全体の流れをある程度コントロールすることができます。
Ⅲ.おわりに
卓球競技を長くやっている人であれば誰でも、曲りなりにも初心者への技術指導は行えます。しかしながら、試合の組み立て方・練習メニューの決め方・勝つための考え方など、技術の先を正しく伝えられる指導者は非常に少ないです。なぜなら指導者の、選手としてのレベルが足りないから。私もそういう人間の一人ですが、最近全国上位の実績を持つ理論派の指導者に出会い、選手としてのレベルを上げようともがいています。同時に、いろいろなお話を聞いて技術の先を勉強しています。少しずつ、見えるものを増やしていきたいです。
(おわり)