中学生だけの地区予選が1次予選で、これを抜けると高校生に混じっての地区2次予選へ出場することができます。
抜け出す者たち
大会会場を、ではなく。
中学スタート勢の中から抜け出し始めた選手たちがいます。
秘密練習に新たに参入した左利き二人は進化が始まりました。
両者とも長いサービスに対してはフォアハンドドライブを試み、サービスには下回転の量に差を付けてチャンスを作り、積極的にフォアハンドで三球目攻撃を仕掛けていきます。
カット型に対し強打を出来るだけ温存して正確に繋ごうとする場面、ショートだけでなくバックハンドボレーをしようとする場面なども見られました。
これらは全て、秘密練習で仕込みを始めたばかりの内容です。これから質を高めていく段階なので全てが入っていく安定感は当然まだありませんが、練習でやったことを積極的に試そうとしてくれることを有り難く思いました。
この信頼を裏切らないよう、本気で勝たせるための計画を練っていかなければいけないと感じます。ただし、選手たちにいらぬプレッシャーを与えぬよう、選手たちにそういう気を悟られぬよう。
心は熱く、頭は冷静に。
もう一人、学校外で個人レッスンを受け始めた選手は非常に攻撃的なプレーが出来ていて素晴らしいの一言です。
甘いサービスはフォア表で叩き、ツッツキは正確に上げて次をたたく。
彼女が対カットの能力を伸ばしていけば、部内で3番手に躍り出ることは間違いないでしょう。上二人はサービス・レシーブをどれだけ強化できるかですが、例のコーチに付いていけば、3年の夏には2番手と同格以上の選手になれるはず。
彼女の卓球への入れ込みようは異様な熱を帯びてきており、コーチの元で週1、私との秘密練習を週2、さらにもう一日秘密練習してくれと頼んでくる有様です。
「週3日も外部で練習すれば十分では…??」と少し驚きながらそのわけを聞いてみると、左利き二人が私と練習を始めたことを知って、その倍は練習しないと差を付けられないと考えたとのことでした。
彼女の家庭も問題を抱えており、なんだか切羽詰まっているようにも思えます。
3年生のエースに、いろいろと似ています。
技術はコーチに任せて、私は彼女の精神をサポートしていくつもりです。
この三人は、これから爆発的に伸びていくでしょう。
周りは気付いていないかもしれませんが、すでにその予兆が表れています。
カット型2人
秘密練習をしているAさんと、習得スピードの速いBさん。
Aさんは名の知れた3年生に勝ちベスト16、Bさんはカット型への戦い方を知っている3年生に敗れベスト32。
ともに2次予選へ駒を進めました。
Bさんから。
ベンチ入りできるのが4回戦からであり、1,2回戦は彼女なら難なく突破するだろうと他の選手の試合を観たり、選手たちとじっくりお話ししたりしておりました。
4回戦すらドライブが正確にできる相手ではなく、ツッツキしているだけで勝てるような状態でした。
16決定の5回戦は突然レベルが上がり(と言ってもずば抜けた技術を持つ相手ではないのですけれど)、切れたツッツキには手を出さず、粒のツッツキに対してバックハンドで軽くドライブ、フォアサイドへのツッツキはボールを選んで乗せ打ちしてきます。
サービスはバックコーナーへの横回転が多く速いバックハンドサービスを多用。それとセットでフォア前にナックル性をポトリ。サービスだけで数点取られていました。
- 軸にするサービス
- レシーブはロングサービスを待って、フォア前に落とされたら思い切って入り込む
- フォアツッツキを切ろうとしすぎない
- バックサイドに来た緩いドライブは、切ろうとせずぶつけて前に送ること
などを伝えましたが、本人の中で何か思うことがあったのかサービスはまとまらず、ラリーは長くなるもののやはりレシーブやカットミスの失点が減らず0-2へ。
だんだん相手のボールに合ってきてレシーブとカットが入りだし1セットを取り返しますが、1-3で敗れました。
彼女の場合は学校の練習でしか接触がないため、打法に関するレッスンしかできていない状態です。
「こういう時はこういうサービスにしよう」、「カット型はこういうボールで躱されがちだから、そういう時にはこうしよう」といった戦略的な仕込みが出来ていないのです。
単なるミスではなく、下準備の不足です。そのことは分かっていて負け方も予想通りの内容でしたが、接触時間がいかんせん足りません。
能力が高く打法そのものの習得が速かった分、このままいくと彼女の満足度は上げ止まり降下を始めるでしょう。
サービス・レシーブと、回り込んで打つことを重点的にやっていきます。
さらに3球目・5球目、フィッシュに対する攻撃、切らないツッツキ・カットを練習してもらいます。
方針としては、ツッツキ・カットの質と幅を広げつつ他のパーツを強化する、ということです。他で補った方が、このレベルでは簡単です。
そして、Aさん。
仕込み中のサービス、フォアサイドへのスピードドライブに対するフォアハンドドライブでの返球、数本は返せるバックカット、甘い球への回り込み…。
16決定では、秘密練習で仕込んでいるものとBさんの技術を真似したものとを駆使して、ほぼ独力で勝ち切りました。
会場は冷房が効いていましたが暑そうだったので確認し、うちわであおいで差し上げたくらい。
Bさんの試合が終わってAさんの元へ向かった時点で2-0のセット終盤。
2-1にされたものの内容が分からないので、ツッツキとカットをゆっくり飛ばすこと、フォアハンドはぶち抜こうとしなくて良いことを伝えた程度。11-6で3セット目を取り勝利しました。
相手の選手と私は一度練習したことがあり、正確に繋げばカットしづらいボールが出ていました。しかしながら今回の試合ではコースがまとまっておらず、1発の威力も出しすぎで、自分が相手の返球に対応しづらい状況を作り出してしまっていました。
私が相手のベンチにいれば勝てた可能性は大いにある、少なくとも私が見始めて以降はそういう試合内容でした。
Aさんのサービスはかなり良くなってきました。アップダウンサービスと呼べるくらいになってきています。
ツッツキも安定し、粒高にも慣れてきました。
課題はフォアハンドを振る際の足と、バックカットで対応できる幅です。
足を動かして打つ練習が減ってきており、回り込みの際最後の左足の出が小さくなりがちになっています。このことでスイングが窮屈になり、安定感と威力が落ちています。
カットについても片足を大きく出してスイングを支える、これを体が覚えるまで繰り返さなければいけません。
ハイタッチ
Aさんがベスト16を決めてベンチに戻ってくる際、目が合うと彼女は笑顔に。
私の方も、笑顔に。
ハイタッチをする予感があって私がスッと右手を掲げると、彼女も手を掲げ。
もともと個人戦に限って、選手たちとハイタッチをしていた時期がありました。これは私が選手としてコーチとハイタッチをして自己肯定感が上がった経験をこの1年でしたので、試しにやってみようと始めたものでした。
気持ちよく勝つと自分から手を合わせてくれる人がいる一方で、勝っても触れるか触れないか程度の”手が動かないハイタッチ”をする選手が多数派でありました。
そういう様子を何度か見て、「これは女子選手、少なくとも今の私と彼らの間には必要ないものだな」と判断し、ここ数か月は完全にやめていました。
ところがこの試合後はAさんが私と目を合わせたまま近づいて来て、なんだかその間が一瞬長く感じたんですね。「あっ、これはハイタッチする流れだ」と私の方が察して、手を挙げました。
このときのハイタッチは、お互いの手がほぼ同じ強さで接触した、まさに理想的なハイタッチでした。
一瞬でしたが、
心が通じ合った、信頼されている、同じ喜びを感じている…といった思いが一気に駆け抜け、得も言われぬ幸福感に包まれました。また魂を救済されてしまいました。
この瞬間は、一生忘れないでしょう。
県総体シングルスのすっきりとした終わり方と言い、今回のハイタッチと言い、私の心が軽くなる出来事が続いて、なんだかご機嫌な自分を感じています。
(つづく)