市総体が終わりました。
いろいろと思うところを、テーマ別に書き出して行こうと思います。
今回、私が関わってきた選手の内二人が、試合途中で泣いてしまいました。
足の痛みと責任感と
一人は、現在私が外部コーチ登録をしているA中学校のエース、中学2年生の女子選手です。
彼女は練習の疲労が重なり、ここ最近では足の痛みによって思うように動けない状態でした。医師の診断で一時運動を制限されるまでに痛んでいたようです。
両足にテーピングをして出場した今回、団体戦では個人成績1勝2敗。負けが全て足の痛みのせいとは思いませんが、本人としては自分が負けたためにチームが負けてしまったと責任感を感じていたようです。もちろん相手の出来が良かったのも大きいのですが…
最初の2戦で負けて、団体戦としては最後の1戦。3台進行のため1セット目を横目で少し見て、これはなんとか一人で行けると判断。他の2試合を注視しておりました。
ふと気づくと彼女がセット間にそばに寄ってきまして。ボロッボロ泣いておるんですね。「えっ!?」と思ってカウント見やりましたら2-0でリードしているわけです。
時々彼女の試合もチラチラと見ておりましたので、やっていることが決して悪くないことは把握しておりました。カウントからも、敗色濃厚のために泣いているわけではないことは明らかです。何か他に原因がある…。
足が痛んでいることも練習相手をしている都合上とうに知っておりましたので、なぜ泣いているかは置いておいて彼女を認め、励まし、なんとか少しでも安心感を与えることを目指しました。
肩に触れ、「観ていたけれど、内容は全く悪くないよ。足が痛んで思うようにできないだろうけれど、そんな状態の中であなたは落ち着いて良くやっているよ。大丈夫だよ。」と繰り返して、送り出しました。
団体戦が全て終わってお昼休憩に入って。落ち着いて笑顔も出ている様子を見て話を聞いてみました。彼女曰く、
私が負けたせいで団体負けちゃって、地区大会に行けなかったらどうしようとか、足が痛くて上手くできなくて…
何で私が試合してるんだろう、こんなんだったら別の、先輩が出た方が良かったんじゃないかとか考えちゃって…
2試合目までは我慢してたんですけど、最後の試合の途中で我慢できなくなちゃって…
と。
格上に対して、本気で勝ちに行った
もう一人は、昨年度まで私が外部コーチ登録をしていたB中学校の3年生の選手。
私のもとで秘密練習をしていた、中学スタートの選手です。
個人戦シングルスで地区大会出場が決まり、上位8名での総当たりリーグ戦が始まりました。
先述したA中エースも同時に試合をしていたのですが、相手は同じコーチのレッスンを受けていた仲であり、B中の選手でもあって秘密練習にも参加していたという背景から私はノータッチという方針を採りまして。
ではあたくしの愛弟子さんの試合を観戦しようということで、B中の応援の中に潜り込みました。
1セット目、展開は悪くないもののスイングが振り切れていない場面が多くみられました。そこで、アドバイザーとしてコート後ろにいた、これまた私と一緒に秘密練習をしていた選手に「ドライブは思い切って振り切ってしまおう、って言ってあげて」と伝えました。(直接アドバイスしていないのでまぁ…これはセーフ??)
アドバイザーのそばからは離れて選手の様子を見ていたんですけれども、何やら床に両手両膝をついて、表情は見えないものの顔は赤くなっており、これは泣いているのかな…と。
彼女の場合は確かに0-1になっていましたが内容は悪くないこと、県南も決まっていること、また彼女の性格的に負けていないうちに泣くことは考えづらい…などの情報から、この試合の勝ち負けがどうこうではないだろうと推測しておりました。
アドバイザーも懸命に励ましている様子。
2セット目が始まった時点でアドバイザーの側に行き、少し話をしながら観ておりました。スイングに勢いが出始めて終盤まで競りますが最後の数本を取られ、0-2。
戻ってきた彼女、まぁ~バッツリ泣いておるんですね。最初にお話しした選手と同じような、これはもう泣き止むのすら難しいぞ…という具合で。
アドバイザーには2セット目が終わるまでに、レシーブとフォアハンドに関する具体的なアドバイスを伝えていました。
アドバイザーも懸命にそれを伝えようとするのですが、やはり人からその場で言われた台本的な言葉を伝えるのは容易ではございません。さらに選手が号泣しておるものですから、それはもう伝わる状況ではないと。
私ももうA中にて外部コーチ登録をしている身、A中の人がどうこうではなく、今戦っている相手にとっては不正になるということで、観戦を決めた時点から何も言うまいと決めておりました。
しかしながら、目の前で見知った14,5歳の選手が号泣しているわけですね。これはもう私が関与する他ない、でなければ心が壊れてしまう…ということで。
名前を読んで立ち上がらせ、肩を抱き寄せ(本人が思いのほか脱力していたため、意図せずこういう形になってしまいました。先述のケース同様に、肩を触りながら語りかけることを狙っていたのですが…)、肩や背中に触れさすりつつ語りかけました。
内容はとても良いこと、バック粒でのレシーブはゆっくり送ること、低いツッツキに対するドライブはくっつけて振り切る、ネットの倍くらいに上がってきたボールは強くいくこと…。
本当にあなたはうまくやれているよ。次のセットは1本ずつ間を取って、ゆっくりやってごらん。ちょっとずつ落ち着いてくるかもしれないよ。
僕が見ているから。大丈夫だよ。さぁ、頑張って!
私のレッスンを受けに来てくれたからという情も無いと言ったらウソになりますが、どちらかといえば信頼関係があると思えたからこそ、そういう行動がとれたと思うんですね。
ここはオリンピックの予選でも世界選手権の会場でもなく。泣いているのは卓球を始めて2年経ったばかりの選手です。立場がどうこうの前に、人の心があればそこは一人の人間として救いの手を差し伸べたくなるのは当然。
その上で信頼関係があったなら声を掛けるのが、私は人間として正しいと考えています。
誰かにこのことを咎められたわけではないのですけれども…。
試合後しばらく経ってお話したところ、その試合の前の選手、決勝リーグでの1発目で勝てなかったことが悔しくて、フォアドライブや内容も悪いと感じていたことも重なって、2試合目の途中で泣いてしまったのだそうです。
しかしながらこのリーグ戦最初の相手はですね、小学生の頃から地元の少年団?のようなチームで練習を続けており、県大会には確実に出られる実力を持った選手なんですね。確かに粒高のボールを苦手としているのでチャンスはあるものの、総合力で比べれば明らかに格上であるわけです。
まぁ彼女なりにいろいろと考えて、ここは勝つんだ!という思いで臨んだのでしょう。一昨年の今頃はドライだった彼女も、ここ1年は熱心に練習していましたから…。真剣に取り組んだからこそ、そういう感情にもなるのでしょう。
入学してきた頃は、まさかこういう熱い人間に変質するとは思いませんでした。人間として、大きく成長しました。
ちょっと脱線
ちょっと脱線しますが、なんだか、道徳の教材になりそうな話だなぁと書き出していて思いました。
私が思い出したのは、幼い兄弟?が動物園にやってくるお話。弟の誕生日で弟は動物園をずっと楽しみにしていて。しかし彼らがやって来たのは閉園時刻を過ぎた後。
動物園の管理人は事情を汲んで彼らを入園させるが、兄弟がなかなか園の出口に現れないため騒ぎになり、無事だったものの責任を感じて管理人は辞職。
あなたが管理人なら、この幼い兄弟を入園させましたか?という問い。
私は、彼らを入園はさせない、自分が同伴する場合のみ入園させる、という選択をすると思っていました。なぜなら彼らの入園を許すと「5分後がいいなら10分後でも入れてくれ」といった具合に閉園時刻の存在意義が無くなってしまうからです。
ところが今回の現実でのケースを鑑みますと、どうやら私は閉園時刻を守ることよりも情を優先してしまうようです。
いやだってねぇ、目の前であんな、世界の終わりみたいな泣き方されたらそれはもう…
予防法について
今回の2ケースを見ますと、目の前の試合ではなく直近の数試合に原因があること、内容や勝敗への不満があることが共通しています。
試合中に泣き出すことを防ぐには、この不満を次の試合までに何らかの方法で解消しておくことと考えます。
一人になって落ち着いて整理するのも良し、同級生や先生に話して受け止めてもらって気持ちを切り替えるもよし。なんとかして、納得した上で次の試合へ進まなければいけません。
B中のケースでは、原因となった試合を私はほとんど観られませんでした。その試合をアドバイザーとして観ていて、試合後の彼女の様子まで観察できたなら異変に気付けたかもしれません。あるいはお話が少しでも出来ていたなら、状況は変わっていたかもしれません。
A中のケースでは、2戦とも観ていたものの負けた直後に声を掛けることを私が避けてしまったために起きてしまったかもしれません。特に1戦目は総合力では圧倒的に勝る相手に敗れたこと、続く他の試合が複数あったことから、「ここはそっとしておこう…」という安易な判断をしてしまいました。その後のケアができないまま2戦目を終え、3戦目で泣くという事態を招いてしまったと思われます。
私はこれまで、負けた後は出来るだけ声をかけずに、しばらくそっとしておくのが正しいのだと思っていました。しかしながら今回のことで、一概にそうとも言えないのかなと思うようになっています。
これを教訓として私の視野は少し広がりましたが、見るべき選手が10数人いる中でどこまで気付けるか・ケアが出来るかは疑問が残ります。
対処法について
泣いてしまった後での対処を考えます。
今回の2ケースとも私は、選手の肩に触れながら語り掛けています。これは私の発案ではなく、東海クラブの指導者の一人から直接聞いた方法論です。
当時の東海クラブは女子の小中学生が多く在籍しており、彼らが泣いた時にはユニフォーム越しに肩に触れながら話をすると落ち着きを取り戻しやすいのだということでした。選手の保護者の方たちには、そういう緊急事態に限っては選手に触れることがあります、と説明しているそうです。
私なりにこの方法を考えてみますと、確かに肩をポンポンされるといくらか安心できるイメージは浮かびます。それに、他者に触れられた感触に意識が行くことによって落ち着きを得られる効果もあると考えました。
ですから昨年の新人戦地区大会で1人が試合中に泣いた時に初めて、肩に触れながら語り掛ける手法を取りました。
これはまぁ、お互いに人を選ぶ方法だとは思います。
まずは選手とアドバイザー間に、確かな信頼関係がなければマイナスになってしまうでしょう。また、選手の自立心が非常に強かったり、女子選手で男性に触れられることに拒否感を持つ場合にはこの方法は避けなければいけません。そんな時には信頼できるチームメイトに、触れる役割を担ってもらうのが良いでしょう。
語りかける内容は励ますための言葉になるわけですが、そこにアドバイザーの焦りが滲み出ないよう気を配る必要があります。(これを私がその場で本当にできているかというと疑問ですが…)
本当に大丈夫なのだ、という風を装って、というか自分を騙すくらいのつもりで思い込んで、「ここがよくできているよ、大丈夫だよ。」と諭します。
やはり本人をまるごと受け入れて認めてあげた上で、良いところを褒め、さらに話が聞けそうであれば次に採るべき方針も少し伝えられればよろしいかと思います。
一度泣いてしまうとその試合中に平常心に戻ることはできませんので、前もってそれを防ぐことが最重要です。普段から話を聞き、自分の試合を評価する方法や観点を言って聞かせ、平常心を保つ考え方も仕込んで。それでも泣いてしまった場合には、泣いた状態で一番betterな状況に持っていくことを目指します。
技術・戦術・メンタル、何に付けても事前の念入りな準備が最も大切、ということですね。
(おわり)