ちょうど昨年度のこの時期から、今登録している中学校へ訪れるようになりました。そうは言っても昨年度のうちは月に1回程度の訪問、練習試合に帯同することもできなかったので、なかなか下準備が整わず…
今年の3年生については「間に合わなかったなぁ」という部分が多々ありました。
打法以外にも入念な下準備を
打法については多くの人が練習するのですが、学校での練習量や指導のレベルには限界があります。また、選手が中学生であり精神的にはまだまだ不安定です。
ですから、精神的な安定を得る方法や戦術的な定石や知恵、つまりは「卓球の試合の仕方」を仕込んで補強する必要があります。
具体的には後述しますが、前の学校で数年かけて少しずつ仕込んできたことを、また新たな場所でやり直していかなければいけません。
実際には卓球の打法から試合の仕方まで毎年新入生に教えていくものですが、試合の仕方については先輩がそれらを習慣化していれば新入生に教えるのが極めて簡単です。
実際に先輩の試合を見せ、「あそこでタオルを取ってから流れが変わったでしょう」などと言えば繰り返し言って聞かせる必要はなくなります。私がいなくなっても先輩から後輩へ伝わっていくし、それどころか教えなくても自ずから実践する子供も出てきます。
ですから卓球で同じレベルを目指すにしても、それなりの習慣が定着した集団と新たにこれから仕込んでいく集団では、かかる時間が違ってきますね。
精神的な安定を得るために
- スコアを自分で把握しながら試合を進めること
- 飲み物は試合をするコートへ持って行くこと
- 給水≧アドバイス であるということ
- タオルは台へ持って行くこと
1.スコアを確認しながら試合を進めること
これの最大の目的は、審判の誤審によって負けるのを防ぐことです。私がベンチに入るようになって5年目になりますが、審判の誤審によって突如流れが変わり優勢だったセットを落とす試合を何度も見てきました。
9-6から10-6になるところを審判が誤って9-7に。そこから1点ずつ取って10-8。レシーブミスとツッツキのミスが続いて10-10。流れを受けてプレーが受け身になり10-12。
10-8になった時点で本来なら11-7ですから、ここで取っているはずですね。そうなっていれば全く雰囲気は怪しくならないまま次のセットに臨めるわけです。
これが第2セットでカウント1-1になってしまおうものなら、もう試合全体の優位さえ五分になってしまいますよね。本来2-0で、ここから手を緩めず行けば雰囲気の良いまま勝てるはずだったのに。
この例、まさに今回の市総体ダブルスで起こりかけたケースです。実際には10-10からなんとかもって12-10でセットカウント2-0としたので勝てましたが…
これが1-1になっていたら負けもあったと思います。
ダブルス2組と審判1人、計5人の人間がいながら誰も気付けない。応援している選手たち数名の中で気づいたのは2年生1人だけ。
例えそういう場面に出くわしても、その場で試合を止めて介入したり選手を叱ったりするのは良くない。
ここで大事なことは、子供たちが悪いのではなく、誤審によって負けうるから気を付けるよう仕込んでおかなかった指導者の責任だということです。
だって、中学スタートで卓球を始めて1年かそこらでは、スコアになんて意識行きませんよね。緊張するし、ボールは入らないし、初めての相手だし。打つことで頭はいっぱいです。
県大会ともなれば、出場する選手はほぼ全員誤審に気付けると思います。怪しいのは市や地区の大会。
だから事前に繰り返し言ってきかせなければいけません。カウントの誤りによって勝っていたはずの試合が負けになることがあるんだよ、ということを。
誤審の影響で負けていたら。後になって誤審があったことに気づいたら。ましてやそれが、地区・県大会への出場決定戦だったなら。
取り返しがつきませんよね。選手からしたら最悪です。そういう最悪を避けるために、入念な準備をしておくのです。
2.飲み物は試合をするコートへ持って行くこと
これもまぁ、試合慣れしている人間にとってみれば当たり前ですけれども、中学スタートの子供たちには習慣化させるところから始まります。
個人戦はもちろん、団体戦についてもコートへ持って行かせます。
ベンチに帰ってきた選手に給水させようとすると、団体戦で特に自分のコートまで飲み物を持ってきていない選手が多いです。
みんなで置いた荷物のところへ置いたままで、わずか1分しかないセット間に「飲み物を取りに行く」ためのタイムロスが生じます。
相手と大きな差がある市総体ならそれでも勝つかもしれませんが、地区以降はそうはいきません。相手のレベルが上がった時にそのタイムロスが生じて致命傷にならないよう、早いうちから飲み物を持って台へ行く癖をつけておかねばなりません。
3.給水≧アドバイス であるということ
暑い季節でなくても緊張したり一生懸命に打てば体温が上がりますから、それを下げる効果や、味覚や触覚に一瞬でも意識が行くことでいくらか落ち着きを得る効果が期待できます。
ですから私は、アドバイスと同等に給水を優先すべきだという考えです。
給水して呼吸を整えて落ち着いてから、あるいは飲みながらリラックスしてアドバイスは聞いてもらった方が良いです。
中には選手を直立させてアドバイスをする人もいますが、あれは良くない。
セット間はたった1分しかなく、アドバイスを聞いてから飲み物を飲んで…などと悠長にしている時間はありません。
第一、直立させるような関係性で、ベンチに返って心は休まるでしょうか。飲み物を飲みながら聞くことが常態となっている方が、選手はリラックスして指導者のアドバイスに耳を傾けられるはずです。
4.タオルは台へ持って行くこと
6点ごとにタオルを取って良いことは、他の学校を見ていてもそれなりに広く認知されているようです。しかしながらタオルを取ることの価値を理解している選手が少ない。これは指導にあたる人間が教えてあげなければいけません。
タオルを取ることで時間が作れるので、その間に次の1点を取るためには何をすべきか整理すること。
相手の連続得点によって相手に行った流れを引き留める効果、逆に自分のミスやアンラッキーが続いて流れが悪い時にそれを断ち切る効果が期待できること。
シンプルに小休憩が取れるので、呼吸を整えることができること。
これは先述のように先輩が試合で効果を発揮した場面をみせたり、あるいは先輩から先輩から直接タオリングの効果を伝えられれば、試してみようという気持ちになるでしょう。
前の学校では、「騙されたと思って、タオルを取ってごらん」と言ったところ、すぐに実戦で効果が出て「本当に効果があるんですね!」などと驚いていた選手もいました。
これを実感してしまえばもう、タオルも武器の一つだということが分かるわけですね。
中にはタオルを使わずに試合を進めても何ら変わらない選手もいますので、練習試合等で試しにタオルを取ってみるよう伝えて様子を見ていくのが良いでしょう。
木原美悠選手だったでしょうか、このクラスで「私は一切タオリングはしません」みたいなことを言っていたのは。でもまぁ、ごく少数ですね。馬龍選手でさえ、第1セットの最初のタイミングでもタオルのところへは行きますからね…。
寂しいが、可能性がある
これは大変だ…という気持ちがある一方で、場所が変わってもきちんと卓球の形をした卓球を仕込むことが出来たなら、私もいくらか”本物”に近づけるかもしれないという思いもあります。
それに、何も知らずに敗れていた側を(本人たちが望むのであれば)引き上げていくことも本意であります。やはり前の学校のように既に整えた環境で続けていくのは、指導者側にとってはぬるま湯、裸の王様になりかねないなと。
大変だけれど、前の学校に通いだした頃の私より数段レベルアップした私が最初から関わっていくわけですので、より効率は良く行けるはず。あとは選手たちがどれくらい卓球にのめり込めるかです。それによっては、おもしろいことになるかもしれませんね。
そうは言っても、何だか寂しいところはありますけれどもね。異動になる先生は、こんなふうに感じるのでしょうか。
私がそこにいたことを知る選手が全員卒業した時、そういう気持ちは消えていくのかもしれませんね。
(おわり)