中学3年生にとっては最後の大会、1年生にとっては最初の大会が開催される季節になりました。そこで今回は、指導者がベンチにおいてできること、意識すると良いポイントを考えていきます。選手の技術レベルによりアドバイスの方針や内容が異なりますので、始めたばかりの選手と一通りの技術が身に付いた選手それぞれに有効なアドバイスも考えます。
いろいろ書いていますが、大事なのは「選手が安心して試合に臨めること」だと考えています。戦術的なアドバイスができることよりも、指導者を人間として信頼できているか、選手は心理的にベンチを頼れるか、ということの方が大切です。そうでないとしたら、ベンチに入らない方がマシ、ということです。
ミスを責めないこと
セット間に選手のミスを責めること、これは絶対にダメです。選手の精神状態を悪化させてプレーの質も下がります。ポジティブな効果は全く無いと考えてください。
選手は、望んでミスしているわけではありません。試合への緊張はもちろん、相手のいるスポーツですから、相手の工夫によってミスが生じている場合もあります。一見単純なミスに思えても、その背景には様々な要因があることを理解しておく必要があります。
そもそも選手のミスは、それまでの練習内容や指導によって減らせるものです。練習へ向かう態度は選手に依存しますが、試合で起こり得る状況を想定しての指導は指導者に依存します。選手のミスを責めたい気持ちになってしまった時には、選手ではなくご自身の指導や指示した練習の内容を振り返ってみてください。
その言葉は選手を安心させるか
観ている側の方が安心したいという心理が働いて、ついつい「大丈夫」といったような言葉をかけてしまうことがあると思います。この言葉自体は問題ないのですが、そこに文脈があるかどうかはよく考える必要があります。
何の根拠もない「大丈夫」は、大丈夫でなくなる可能性を孕んでいるという意味で、嘘です。無責任な発言、という言い方もできます。時には選手をより不安にさせてしまう場合もあります。その言葉はその時の選手の状態に適した言葉か、ただ言うだけになっていないか、選手と観る側どちらを安心させたい発言か、といった視点で考えたいです。
私が選手の不安そうな様子を見た時には、「大丈夫」という言葉はあまり使いません。代わりに、まずは選手がどう感じているかを聞き取りすることが多いです。寄り添う態度を取り、理解を示す言葉をかけます。その後で、その時選手ができそうなことを選択して、「次のセットはこれだけ意識してやってみよう」といった言い方をします。選手の不安を否定せず、一旦受け止めることも重要と思います。
何をアドバイスすべきか
セット間のアドバイスでは、打ち方や動き方といった技術的なアドバイスではなく、戦術・戦略的なアドバイスや精神状態を整える声がけに注力します。試合中に技術力が向上することは現実的でないからです。「今、その場で、できることで組み立てる」ことが、試合内容を一番良いものにします。
時間は1分しかないので、伝えるポイントは多くても2つにします。戦術的なアドバイスでは、①どんなサーブをだすか、②どうレシーブするか、が最優先です。この2点を言えば計2つですね。もちろん選手の状態によっては、心理的なケアのみ行う場合もあります。
サーブでは、主に使っていきたいサービスと配球について伝えます。例えば、「フォア前への下回転サービスから得点出来ているから、ほとんどこのサービスを出そう。見せ球として2,3回、バックに上回転のロングサービスを出そう。」
レシーブは、待ち方や具体的な返し方を伝えます。例えば、「ロングサービスにはうまく対応できているから、短いサービスを7、ロングサービスを3の意識配分で待とう」だとか、横回転の強いサービスを返すことができていなければ、「ボールの右側を触って、相手のフォアサイドを狙ってレシーブしよう」など。
ただし、こうしたアドバイスができるよう逆算して、とくにサービスやサービスからの展開は練習しておく必要があります。
試合をどう観るか
上記のようなアドバイスをするためには、互いの選手のサービスとレシーブをよく観察します。サービスとレシーブがうまくいくかが、試合の流れや勝敗を左右します。
特にレシーブがうまくできない、つまりレシーブが相手コートに入らないか、相手にとってのチャンスボールになってしまう場合は試合が崩壊してしまいます。プレーしている選手は、相手のサービスに対して判断し、その後のラリーも行わなければならず、目の前のことで必死です。そこで、選手より冷静に観られるベンチは、相手のサービスをどう返すとより良いかを考えます。つまり、サービスに対してどう打つべきか(=打法、ボールのどこをどう触るか)、どこを狙って返球するべきかを考えます。
サービスについては、どのサービスを相手が嫌がっているか、どのサービスからの展開が良いか、という視点で観察します。サービスからの展開が良いかどうかは、得点につながるかどうかが一番分かりやすいですね。他には、選手が先に攻め込めているか、失点しにくいか、得意な技術を使える展開になっているか、といった視点が考えられます。
相手に効いているサービスは温存せず、効かなくなるまでたくさん出していきます。取りづらいサービスは、その試合の間になんとか返せるようになったとしても、返すのが得意になることは稀です。最初の取りづらいな、という嫌な印象は抜けきらないのです。
選手ファーストで体調のケアも
アドバイスをすることも大切ですが、水分補給や体温を下げる工夫はそれ以上に重要です。
選手がベンチに戻ってきたら、まずは給水させながら、必要であればうちわを渡したり、指導者の方で扇ぐなどして体調を整えましょう。アドバイスを聞くときに飲み物を飲んでいるとはけしからん、というような前時代的な考えはやめていただきたいです。普段から信頼関係を築きながら適切な指導が行われていれば、その程度のことで関係は揺らがないはずです。
他に中学生の大会でたまに見かけるのが、選手を床に座らせてアドバイスを聴かせている場面です。座った方が良い何らかの理由があるならば構いませんが、指導者の方が偉いのだから選手は座って話を聞け、というような思想もやめていただきたいですね。指導に当たっては上下関係があって良いと思いますが、人間としては互いに尊重されるべきです。指導者は、所詮たまたま先に生まれただけです。
何でも選手の希望を受け入れる、ということとは違います。普段の練習から選手を下に見ることなく尊重し、試合でより良いプレーをすることを共通の目的として練習していきたいものですね。
参考動画
僕がコーチングや指導を学んだのは別の方ですが、大学時代の先輩も同じようなことを仰っていました。辿り着くところは同じなのかもしれませんね。
(おわり)