市大会・地区大会を抜けて出していくために、新たな学校で伝えていかないといけないもろもろについて。
前回に続きまして、今回は戦術のお話です。
シングルス
1.第1セットでサービスを選ぶ、相手のレシーブを見る
同じモーションから様々なサービスを繰り出す練習を積んだ上で、実際の試合ではそれらをフルに使い相手の情報を集める。
まずは1セット目に使えるサービスは全て使って、相手に効くサービスを選ぶ。ここでの「効くサービス」とは、相手がレシーブミスをするサービスに限らない。
相手のレシーブには段階が4つある。
- レシーブミス。サービスを出すだけで得点できる。
- レシーブは返ってくるが甘く、1発で決めに行くことが出来る。
- レシーブが低く返ってきて1発で決めるのは難しいが、自分から打っていくことができて5球目攻撃へつなげられる。
- レシーブから強く打たれたりコースを突かれたりして、3球目が攻撃ではなく守備や繋ぎになってしまう。
1,2はサービスが効いていると言える。相手のレベルが相当に上がってくれば、3のように厳しいレシーブを防ぐことが出来ているだけでもサービスが効いていると言えるだろう。3までであればこちらが先手を取っていけるからである。
何としても避けなければならないのは4。自分が後手に回ってから勝つのは、カット型であっても難しい。ただし、相手にレシーブから強く打たれてもそれを待ち構えてカウンターできるなら、それは3に該当する。
一通り出して効くサービスを、2,3選べると良い。試合も中盤以降になってくれば、軸として使うサービスは2,3種類で、あとは配分の問題である。例えばミドル前を取りづらそうにしているなら、そこに下・ナックル・上を出しながら、フォアやバックへのロングサービスを1,2本混ぜていく…という具合だ。
上手くレシーブできなかったサービスが、その試合中に突然うまくレシーブされ始めるということはない。低く返せるようになっても相手の思考はそのサービスをなんとか甘くならないよう返すことでいっぱいになっている。だからそのレシーブを攻められれば対応は遅れるし、そのサービスと対になるサービスがより効くようになる。
また、相手がそれぞれのサービスに対しどうレシーブしてくるのかも見る。
例えばミドル前は必ずバックで取ってくるなら、同じモーションからバックサイドへのロングサービスはきっと効く。バックへのロングサービスに対して回り込んでくるならフォア前やフォアサイドへのロングサービスも準備しておかなければいけない。フォアサイドまでバック粒で返球しようとしてくるなら、フォアにバックにロングサービスを散らしてやろう…など、こちらの方針が立てやすくなる。
2.相手の出来ないこと、嫌がることを探す
これも試合の序盤から中盤にかけて探っていく。どこにどういうボールを送れば相手は嫌がるか。うまく打てないか。
中学スタートの選手相手であれば技術的に穴の開いているところは必ず見つかる。ラケット付近にボールを送るとフォアもバックもうまく打つが、フォアの遠い所は苦手だったりミドルは対応が遅れたりするケースがある。あるいはツッツキに対するドライブは上手いが、ナックルのツッツキに対しては上げすぎてオーバーしてしまうとか、低いボールは上手く打つが少し高いボールには力みが出てミスしてくれるとか、強く打ったボールはクロスにしか来ないから待って当たれば返せる…など。
相手が小学生スタートで一見何でもできるように見えてもどこかに得意ではない場所がある。やたらロング戦に強いから横回転サービスに対してツッツキで切り殺してみたら崩れたとか、ドライブをゆっくり送ってみたらブロックにミスがでた…など。
相手の弱点を探す際には、得失点だけでなく相手の表情や仕草を観察することも伝えておきたい。ミスして嫌そうな顔をしたり、素振りをして確認していたらそこは有効なのだ。相手が良いプレーをして得点していてもホッとしたような顔をしていたり異様に喜んだりしていたら、そのボールはたまたま入ったと考えられる。
3.自分の返球コースを限定する作戦
これは前の学校にいた頃、1,2年生のカデット予選や新人戦で実際に効果を発揮した作戦である。
例えば、相手のバックにすべてのボールを集めてしまおう、と決めてしまうのだ。こうすることで考えることが一つ減り、打法にも迷いがなくなって、そもそも不安定な打法がいくらか入るようになる。加えて最初はみなバックが脆弱であるから、そこに返球しているだけで勝ててしまう。
実際にこの作戦を実行したことにより、劣勢から勝ちに持って行けた試合が2,3あった。アドバイスとしては非常にシンプルだが、だからこそ事前にそういう考え方もあるよと伝えておくだけで各々で実践できる。
こういう方針で成功体験を得ると、段々と相手を観察しながら試合を進めることができるようになっていく。
4.高いボールはチャンスボールではない
自分で作りだした高いボールならまだしも、不意に浮いてきたボールに対しては注意が必要だ。浮いたからといって力任せに打つとミスが出るからである。
チャンスボールをミスしてしまったことで焦りも生まれるため、実際には1点を失うだけでなく3,4点分の影響がある。特に、本当に勝ちたい試合では高いボールに対してより力みやすく、ミスした時の心理的動揺は極めて大きくなる。
そうならないように、普段から「高いボールはチャンスボールではないんだよ。特別強く打つ必要はないんだよ。」と言って聞かせる必要がある。
特別強く打とうが、それなりの強さで打とうが、決まれば同じ1点である。高く浮いていても、普段より少しだけ強く行ければ、あるいはコースを突ければ良いと考える。
大抵の人はそこそこの低さのボール(ネットの倍よりは低い程度)に対して強く打つ練習を積んでいる。だから、そういうボールに対して狙い打ちをし、不意に浮いてきたボールは普通に打つ。
高いボールに対しコースを突く練習をしつつ、”普通”に打った時の威力を上げておくことが有効だ。
5.ツッツキ合いを避ける
サービスというと皆一様に下回転サービスばかり練習しがちだが、そうではない。
仮に3球目攻撃をできたとして、下回転打ちからでは相手にブロックで押されてからの展開になりやすい。中学スタートでは相手のブロックを弾くほどの回転量を身に付けるまでに時間を要するからだ。
であれば、最初からツッツキレシーブを拒絶するサービスを出せばよい。相手に軽いフリックや流しをさせてロングボールを貰い、それを強打していくのだ。
したがって、スピードのあるロングサービスや台から出るか出ないかの低い横・上・ナックル、ミドルへの横・上・ナックルのショートサービス等を多用していくべきだ。その中に1,2本、同じモーションから素知らぬふりして下回転を出し惑わすのだ。あくまでも横や上に対して強くレシーブさせない、牽制の為の下回転であるから、簡単にばれてしまっては意味がない。相手が思わず払いたくなるようなモーションと軌道で出せるように練習しておく。
相手が下回転サービスを出してくるならツッツキレシーブをせざるを得ないが、可能であればレシーブからドライブをかけてしまう。ツッツキでのラリーが続いて足が止まってからでは打って行くのはより困難になる。レシーブでは難しくても、ツッツキでのラリーが長引かないうちにさっさと上回転にしてしまう。そして、自分のサービスからはツッツキを封じるサービスから展開していく。
ダブルス
1.技術の相性よりも、人間の相性
中学スタートのダブルスでは、技術的・戦型的な相性よりもダブルスを組む2人の人間的な相性の方が優先事項。特に女子選手の場合は、その傾向が顕著かもしれない。
いくら技術的に相性が良くても、お互いのことを嫌っているようなペアリングはNG。あるいは片方が些細なことでキレやすく、もう一方に精神的な負荷がかかるような場合も難しい。そういう選手はシングルスに解放したほうが良い。
例え本人がダブルスをしたいと言っていても、パートナーとなる人間がシングルスを望んだりその選手と組むことを嫌がるならダブルスを無理強いしてはならない。
2.二人のどちらかが戦術担当となる
当然2人で相談しながら練習や試合を行っていくわけだが、こと試合においては戦術的にリーダーシップを発揮するのはどちらか一方に任せた方が良い。2人で自由に発言し始めると、試合中に方針がまとまらないまま終わってしまう可能性があるためだ。
理想的なのは実力が少し上の先輩と後輩を組ませて、先輩にリーダーシップを取ってもらう事。実力もどっこいで学年が同じであるようなケースでは、どちらが戦術を考えるか決めておいた方がいい。戦術担当と、ダブルスの雰囲気を維持するメンタル担当に役割分担できるのが望ましい。
厄介なのは、先輩と後輩で組んで後輩の方が実力が明らかに上の場合。これは大人同士であれば後輩に主導権を握らせても軋轢は生じにくいが、中学生同士でそれはなかなか難しい。よほど先輩側の人間性が柔らかくて、後輩に戦術的なリードをしてもらえてラッキー!くらいに思える人でないと難しい。
3.ラリー間やタオリングの際に相談せよ
せっかく2人でやっているにも関わらず、セット間になるまで一言も言葉を交わさずにプレーするのはもったいない。すぐ隣に相談できる人間がいるのだから、これを利用しない手はないだろう。
試合の展開が良い時には相談は無くてもよい。しかし失点が続いている場合や相手の対応が変わった時にはこちらの方針を確認する必要がある。
後述するが、サービス・レシーブについてはある程度サインで方針を確認できるとしても、3球目・4球目をどのコースに打つか、相手の戸のボールを狙っていくかなど、相談すべきポイントはある。
あまり長く話をしすぎるのは注意の対象になるが、方針の確認・共有をしながら試合を進めていくことは重要である。
4.サービスのサインを決めておく
ダブルスを組む2人で、予めサービスのサインを決めておく。練習ゲームにおいてもサインを用いてプレーさせ、サインを出すことを習慣づけるところから始める。
サインは回転(下・上・ナックルなど)と長短(短く止めるショートサービス、深くに出すロングサービス)が分かるように。
長く出しても打って来ないレベルであれば長短は問題にならないが、県大会を目指すのであれば打ってくる相手に対してきちんと2バウンドさせることは不可欠。
長く出すにしても、ロングボールが返ってくることが事前に分かるので、パートナーが十分に準備ができる。ただし、チキータを使ってこない相手に対しては短い下・ナックルだけで十分に試合が組み立てられる。
ロングサービスを出す場合は、台のセンターライン付近を狙うのが有効である。(図1)多くの中学生の選手にとって待っていない場所であり、身体が入り込んでいるため極めて取りづらいからだ。
(図1)オレンジ部分にロングサービスを出すのは有効。
4.サービスを決めるのは、3球目を打つパートナー
中学スタートの選手にサインを出させると、とかくサーバーがサービスの種類を決めがちだがそうではない。
レシーブに対して打つのはサーバーではなくパートナーなのであるから、基本的にはそのパートナーがサービスの種類を指定しなければならない。相手にツッツキをさせたいから長い下、ストップをさせたいから短い下…など。
もちろんこれは基本となる知識であって、方針が2人で共有されまとまってくれば、戦術担当がサインを出し続けても構わない。重要なことは、サーバー本意ではなくパートナーが打ちやすいようにサービスを出すということだ。
5.レシーブにもサインを
サービスのサインを出しているダブルスは中学生でも見られるが、レシーブのサインを出しているペアはほとんど見られない。
サービスのサインと違い、打法や回転については限定しなくて良い。相手のサービスによってこちらの返球も変わるからだ。ただしコースについては知らせておくべきだ。
どのコースにレシーブを送るかをパートナーが把握していれば、どこからボールが飛んでくるか分かるから準備ができる。
右右ペアのレシーブであれば、安定はストレート。ストレートに送っておけばフォアサイドを切られることはないので、比較的容易に対応できる。バッククロスへの返球にも、フォアハンドで回り込んでいくことさえできる。
クロスにレシーブする際は勝負をかける。思い切ってフリックしたり、フォアサイドを切るような軌道・コースで厳しいボールを送る。可能なら、バックサイドを狙う風からフォアに行けると逆を突けてなおよい。
なぜクロスでは勝負をかけるかと言えば、甘いボールをクロスに送ると今度はこちらのフォアサイドを切るボールが返ってくるからだ。これをパートナーが飛びついて返球するのはかなり難しい。だからこそ、レシーブをクロスに送るなら厳しく、相手が簡単に打てないようなボールを送る必要がある。
6.3球目、4球目は全てフォアハンドで狙え
上述のようにストレートにレシーブを送るのが定石となれば、相手もツッツキをこちらのバックサイドに送ってくる。それを回り込んでフォアハンドで強打していく。
次球を自分で打つ必要がないこと、前球をパートナーが打っているため自分が十分な準備をしやすいことから、シングルスよりも大胆に回り込んで打つことが出来る。
この時自分たちが右右ペアであれば、ドライブはストレートに打って行く。そうすれば今度は相手の返球でバックサイドを切られることがないので、次をパートナーが攻め込みやすい。
また、こちらがストレートにレシーブを送ってからの展開も同様である。
相手がツッツキをしてくれれば、それはシングルスで言うところの「相手のバックサイドに下回転サービスを出して、相手がツッツキレシーブをした」展開と同じである。シングルスであれば避けていく展開だが、ダブルスなら思い切って打っていくことが出来るはずだ。それをフォアハンドでアタックしていく。厳しくバックサイドを切ってくる場合のみ、ツッツキやバックハンドで対応する。
サービスからの3球目攻撃、レシーブからの4球目攻撃は全てフォアハンドで行くのだ!という強い気持ちを持つことである。また、その練習を十分に積んでおくこと。バックハンドも出来れば負けにくいが、勝利への道を切り拓くのはフォアハンドである。
7.相手コートでのサービスアウトに注意
これは戦術的な内容ではないが、サービスのアウトについて。ある程度慣れてくれば相手のサービスが自コートのどこでバウンドしたかは注視するようになるため、そこでのアウトは見逃されにくい。一方で、相手コートでアウトしていることには気付きにくい。
相手コートでのバウンドも見てサービスを予測する習慣を付けさせておけば、これは防ぐことが出来る。
相手のコートでのアウトは戦況に大きく影響を与えるものではないが、何もせず1点頂けるならそうしない手はない。これはルールに規定されていることなのだから、ずるくもなんともない。
8.右右ペアには2本ずつ、右左ペアには1本ずつ
コース配分の定石。
右利き同士のペアであれば、同じコースに2回続けて送球することで、相手同士が重なってミスが出やすい。シングルスであれば相手が一度打ったところでないところに打つが、ダブルスではそこにパートナーが待ち構えている。
一方右利きと左利きのペアに対しては、両者をフォアに大きく動かす形で、1本ずつコースを変えて送球する。左利きには台の左端の方から、右利きには右端の方から打たせることで、互いの動線がクロスし十分な態勢で打ちづらくなる。
ただしこれはあくまで定石であり、これに従わなくてはいけないというものではない。ダブルスの知恵として頭に入れておいて、それをベースに戦略を考えていくということである。
9.バック粒でレシーブせよ
シェークハンドでバック面に粒高を張っている選手には、積極的にバック粒でレシーブしていくことを勧める。サービスの球質を無視できるし、早いテンポで慣れない質の球が飛んでくるため対応が遅れて甘いボールが返球されやすい。
バック粒でレシーブ際、相手にバックを使うことがバレていても構わないから、逆に回り込んだ状態で立って待つ。なんとなくフォアを使うような立ち位置からでは最初は難しい。思い切って、相手コートのフォアサイドを正面に見据えるような角度で立ってしまうのだ。
基本的にコースは先述のセオリー通り、ストレート。右足を台の下に入れてバウンド地点に素早く到着し、ラケットをバウンド地点に寄せ、ラケットヘッドを下向きにし面を立てる。バウンド直後をとらえ、ラケット角度はそのまま、力を抜いて当たってから大きく前方へラケットを送って、深いボールを送る。ボールのスピードは求めなくて良いから、とにかく打点を大切にする。
同じモーションから、フォアサイドへ流すレシーブも練習しておけば、スピードは無くても嫌なレシーブになること間違いなしである。
ことダブルスではショートサービスが多用されるから、粒高のプッシュは大活躍する。それを嫌がってロングサービスを出して来たら、ブロックして短く止め、相手がツッツキしてきたところをフォアハンドで狙い打ちしてやればよい。
長い下だけに対しては粒で押す・流すだけでなく、反転して裏でバッツリ切ってレシーブできるのが望ましい。
これはバック粒の異質攻守型だけでなく、カット型の選手も積極的に使っていくべきだ。県大会を目指すダブルスであれば、わざわざカットを使う必要はない。攻撃型同様にサービス・レシーブからの3,4球目からアタックしていき、それで得点できなければカットで繋いでチャンスを作ってまたアタックしてやる、という意識だ。
最初のうちはカットだけで勝てていても、3年生になったころには周りのフォアハンドのレベルが上がって対応されるようになる。そうなるとカットだけで勝ち上がるのは技術的に難易度が高い。パートナーが送球したボールを打たれ、それをカットするというのはシングルスでのカットの難易度とは訳が違うのだ。
まさに今回の市総体で、私が予見していた通りになってしまった。だから以前の学校ではカット同士のダブルスにも攻撃の練習ばかりさせたし、カットをするならシングルスだよと言っていたのだ。(ただし強制はしていない。)しかしながら本人たちが最終的に選択したことなので、致し方なしである。
(おわり)